シノワズリ
シノワズリ(Chinoiserie)は、ヨーロッパが中国をはじめとする東アジアの美術・工芸・建築の意匠を模倣・再解釈した装飾様式である。17世紀後半、東インド会社などを通じてもたらされた東洋の磁器・漆器・絹といった交易品への憧れを背景に生まれ、18世紀のロココ期に最盛期を迎えた。
シノワズリは実際の中国建築の忠実な再現ではなく、ヨーロッパ人が文献や輸入品から思い描いた幻想的な「東洋」を表現したものである。反り返った塔屋根(パゴダ)、軒先の鈴、格子、龍や鳳凰・花鳥の文様、鮮やかな漆塗りや金彩の色彩などを特徴とし、左右非対称で軽やかなロココの感覚と親和した。庭園の東屋(あずまや)や奇想建築、室内装飾の分野でとりわけ好まれ、独立した構造体系を持たず、他様式の表層を彩る装飾的な皮膜として用いられる傾向が強い。
代表例には、イギリスのキューガーデンの大パゴダや、ポツダムのサンスーシ庭園にある中国茶館などがある。19世紀に入ると、万国博覧会や植民地主義を背景とした東洋趣味(オリエンタリズム)の高まりのなかで、劇場や温室といった娯楽建築にも応用され、パリのバタクラン劇場はその19世紀的な作例として知られる。様式史のうえでは、バロック・ロココの装飾文化の一環として生まれ、19世紀の歴史主義や、より実証的に日本美術を受容したジャポニスムへと連なる、ヨーロッパの異国趣味の長い系譜のなかに位置づけられる。