折衷主義
年代
1800 — 1920
折衷主義(英 Eclecticism)は、過去のさまざまな建築様式の要素を選び取り、一つの建物のなかに組み合わせる近代の設計態度を指す。主に19世紀から20世紀初頭にかけて、ヨーロッパとその影響下にある地域で広く行われた。
産業革命以降、建築家は古代ギリシア・ローマ、ゴシック、ルネサンス、バロックといった歴史上の様式を、考古学的な研究を通じて自在に参照できるようになった。どの過去を選ぶかが用途や施主の趣味、あるいは国家や宗教の表象と結びつくなかで、単一の規範に従うのではなく複数の様式を混成する手法が定着していった。これが折衷主義である。
折衷主義の建築は、新古典主義の均整ある構成を骨格としつつ、ファサードや内部にバロック、ロココ、あるいは東方の意匠などを重ね合わせることが多い。劇場・宮殿・銀行・ホテルといった近代の代表的な建築類型に好んで用いられ、華やかさと格式を演出する手段となった。カイロのアブディーン宮殿のように、ヨーロッパの宮廷文化を範としつつ各時代の様式を集成した王宮は、その典型的な実践例である。
折衷主義は、特定の様式に縛られない自由さを近代建築にもたらした一方で、独自の形態言語をもたないとして、20世紀のモダニズムからは「様式の寄せ集め」と批判された。しかし、歴史的様式を相対化し、選択の対象として扱うその態度そのものは、のちのポストモダニズムにも通じる近代特有の感性であった。