アブディーン宮殿 Abdeen Palace
カイロに建つ19世紀エジプトの宮殿。ヘディーヴ・イスマーイールが造営し、1874年以降は王宮、現在は大統領宮殿として用いられる折衷主義建築である。
§1 — 概要概要
アブディーン宮殿(アラビア語 قصر عابدين/英 Abdeen Palace)は、エジプトの首都カイロの中心部に建つ宮殿である。19世紀後半、ヘディーヴ(副王)イスマーイールの命によって造営され、1874年から1952年のエジプト革命まで王室の主要な公邸として用いられた。革命後は大統領宮殿のひとつとなり、一部は宮殿博物館として公開されている。
歴史
宮殿は、それまで政庁が置かれていたカイロの城塞に代えて、近代的な統治の中心を平地に設けようとするイスマーイールの構想のもとに建てられた。建設は1863年に始まり、フランス人建築家レオン・ルソーの設計のもとで多数のエジプト人・ヨーロッパ人の職人を動員し、約10年を費やして1874年に落成した。20世紀に入ると、国王フアード1世のもとで宮廷建築家を務めたイタリア人エルネスト・ヴェルッチや、同じくイタリア出身のアントニオ・ラシャックらによって増改築と内装の刷新が重ねられ、現在の壮麗な姿が整えられた。
建築的特徴
アブディーン宮殿は、特定の様式に拠らず、ヨーロッパ各時代の意匠を組み合わせた折衷主義の建築である。外観は新古典主義的な水平線と規則的な開口を基調とし、内部はバロックやロココを思わせる豪奢な広間が連なる。諸室は金箔をふんだんに用いた装飾、絵画、そして各国から集められた多数の時計や調度で飾られ、ヨーロッパの宮廷文化を範とした近代エジプト王室の趣味を映し出している。
意義・現在
アブディーン宮殿は、ムハンマド・アリー朝のもとで進められたエジプト近代化と、その王室がヨーロッパへ向けて示そうとした自己像を体現する建築である。城塞から平地の宮殿へという統治の中心の移動は、近代国家としての体裁を整えようとする当時の方針を象徴している。今日では宮殿博物館として武具・銀器・勲章などのコレクションが公開され、首都カイロの近代史を伝える文化施設となっている。