インカ建築
マチュ・ピチュ
ペルー・アンデスの尾根上、標高約2400メートルに築かれた15世紀インカの王領遺跡…
インカ建築(Inca architecture)は、15世紀から16世紀にかけて、アンデス山脈に広大な帝国を築いたインカが生み出した石造建築である。短命な帝国でありながら、その石組みの精度は、世界の石造技術のなかでも傑出している。
最大の特徴は、モルタルを用いない乾式石積みにある。巨大な石材を、隣り合う面が寸分の隙もなく噛み合うよう精密に削り、積み上げる。刃物はおろか紙一枚も通さぬといわれるその接合は、地震の多いアンデスにあって、揺れを受け流す柔構造としても働いた。石積みには、四角い切石を整然と積む方式と、多角形の巨石を巧みに組み合わせる方式とがあり、いずれも目地を陰影として際立たせる。戸口や窓、壁龕は、上が狭まる台形(トラペゾイド)に作られ、安定した堅固な形をなした。クスコ近郊のサクサイワマンには、人の背丈をはるかに超える巨石を隙間なく組んだ城塞の壁が、今も残されている。
インカは鉄器も車輪も、真のアーチも持たなかった。にもかかわらず、険しい山の地形に逆らわず、岩盤や斜面と一体に石を組み、段々畑(テラス)と水路を巡らせて、自然と建築を融合させた。標高約2400メートルの尾根に築かれたマチュ・ピチュは、その思想の結晶である。
スペインの征服後、インカの石壁の多くは土台として残され、その上に教会や邸宅が建てられた。征服者の建物が地震で傾いても、下のインカの石組みは今も微動だにしない、としばしば語られる。