ドラヴィダ建築
タミル建築(Tamil architecture)は、南インドのタミル・ナードゥ州と、スリランカ北部・東部を中心とするタミル語圏で営まれてきた建築の総称である。特定の形態上の様式名というより、地域と言語文化の単位で建築を束ねる呼称であり、その中核を占めるのがドラヴィダ様式のヒンドゥー教寺院である。
タミル・ナードゥ州には数万に及ぶ寺院が分布し、インドの大規模なヒンドゥー教寺院の多くがこの地域に集中する。古代タミル語のサンガム文学には煉瓦造の祠堂への言及があり、各地の発掘でも焼成煉瓦の建物跡が見つかっている。石造の伝統は7世紀以降のパッラヴァ朝に本格化し、岩を掘り出した石窟や一石彫りの祠堂から、切石を積み上げる組積造の寺院へと展開した。9〜13世紀のチョーラ朝は、タンジャーヴール、ガンガイコンダチョーラプラム、ダーラースラムに巨大な石造寺院を築き、石彫と青銅像の制作も頂点を迎える。続くパーンディヤ朝、ヴィジャヤナガル王国、ナーヤカ朝のもとで、寺院は巨大なゴープラム、幾重もの周壁、列柱の回廊、聖池を備える複合体へと拡大した。
寺院は王権と地域社会の中心でもあった。タミル語で寺院を指す「コーヴィル」は「神の住まい」を意味し、王の居所を指す語でもある。壁面に刻まれた碑文は、寄進、祭祀、土地や職能の制度を伝える一次史料となっている。
近世以降は、チェッティナード地方の商人邸宅のような住居建築や、英領期のマドラス(現チェンナイ)で発達したインド・サラセン様式の公共建築が加わり、地域の建築は多層化した。代表例として、タンジャーヴールのブリハディーシュヴァラ寺院、マドゥライのミーナークシ寺院、シュリーランガムのランガナータスワーミ寺院が挙げられる。