アルバニアの首都ティラナに建つピラミッド形の建築。1988年、共産主義体制下の指導者エンヴェル・ホッジャを顕彰する博物館として開館した。体制崩壊後は荒廃したが、2021〜23年にMVRDVが若者向けの技術・文化拠点へと改修した。
§1 — 概要概要
ティラナのピラミッド(Piramida e Tiranës)は、アルバニアの首都ティラナの目抜き通りに建つ、ピラミッド形の記念建築である。1988年、長く同国を率いた共産主義体制下の指導者エンヴェル・ホッジャ(1908–1985)を顕彰する「エンヴェル・ホッジャ博物館」として開館した。設計は、ホッジャの娘で建築家のプランヴェラ・ホッジャを中心とする集団が担った。白い大理石に覆われた特異な外観で知られ、体制の崩壊後は数々の用途を経て荒廃したが、2021年から2023年にかけてオランダの設計事務所MVRDVが若者向けの技術・文化施設へと大きく改修した。
歴史
ホッジャの死から3年後の1988年10月14日、博物館は開館した。設計集団には、娘のプランヴェラ・ホッジャと、その夫クレメント・コラネツィ、ピロ・ヴァソ、ヴラディミル・ブレグが名を連ねた。建設費は当時のアルバニアで最も高額な建造物といわれ、内部には指導者をたたえる展示が置かれた。
1991年に共産主義体制が崩壊すると、建物は文化センターや会議場として転用された。1999年のコソボ紛争の際にはNATOの拠点として使われ、その後はテレビ局やナイトクラブなどにも用いられたが、やがて放置されて荒廃した。2010年には議会が取り壊しを決議したものの、市民の反対運動を受けて撤回され、建物は残された。傾いた外壁を登り、大理石をすべり降りる遊びは、いつしか市民に親しまれる習わしとなっていた。
建築的特徴
放射状に傾く壁面が頂部へと集まる、ピラミッドというより星形にも見える独特の形態をもつ。鉄筋コンクリートの躯体を白い大理石の板で覆い、頂部にはかつて赤い星が掲げられていた。基壇と階段の上に据えられた姿は、台座に載る記念碑のようでもある。粗いコンクリートを思わせることから「ブルータリズム」と評されることもあるが、大理石の被覆と記念碑的な造形は通常の同様式とは異なり、特定の様式には収めにくい一回性の建築である。
MVRDVによる改修では、密閉的で暗かった内部にガラスが差し込まれて開かれ、旧体制を顕彰する標章は取り除かれた。市民が親しんできた「すべり台」は、斜面に沿う色鮮やかな階段として正式に造り直され、コンクリートの構造体の内外には、教室やカフェなどが入る色とりどりの箱が散りばめられた。
意義・現在
改修後の建物には、12〜18歳の若者が無償でプログラミングやロボティクスなどを学ぶ教育拠点「TUMOティラナ」が入っている。強権的な体制の記念碑を、市民に開かれた学びと文化の場へと転じたこの試みは、過去とどう向き合うかをめぐる象徴的な事例として国際的に注目された。一方で、原建築の形態をどこまで尊重したかをめぐっては専門家のあいだで評価が分かれており、歴史的建造物の「再生」と「改変」の境界を問う事例ともなっている。
関連する建築
Related
※ CC BY-SA 4.0(継承)。クレジット表示のうえ同一条件での再配布が必要。