フリードリヒ式ロココ
フリードリヒ式ロココ(Frederician Rococo)は、18世紀半ばのプロイセン王国で、フリードリヒ2世(大王)の治世下に花開いたロココ建築の一様式である。ドイツ語ではフリーデリツィアーニッシェス・ロココと呼ばれ、王自身の趣味と宮廷文化を色濃く反映する。フランスに発したロココの軽やかで優美な装飾を受け継ぎつつ、プロイセン独自の簡潔さと明快な建築構成を併せ持つ点に特徴がある。
代表作はポツダムのサンスーシ宮殿(1745〜1747年)であり、フリードリヒ2世自身の素描をもとに、宮廷建築家ゲオルク・ヴェンツェスラウス・フォン・クノーベルスドルフが実現した。葡萄畑のテラスの上に低く横たわる単層の宮殿は、王が「憂いなし(サン・スーシ)」の語に託した私的な隠れ家であり、左右対称の落ち着いた外観と、内部の華麗な装飾とが対照をなす。
形態的には、貝殻や植物をモチーフとする曲線的な装飾(ロカイユ)、金や鏡を多用した室内、緩やかな曲面や楕円形の広間などにロココの特質があらわれる。一方で、ヴェルサイユのような壮大さや劇的な軸線を志向せず、人体の尺度に近い親密な空間と簡素な平面構成を好んだ。この均衡感覚は、フランス・ロココの過剰な装飾性とも、後に続く新古典主義の厳格さとも異なる中間的な位置にある。
様式としては、フランス・ロココを親としながら、プロイセン宮廷という土壌で独自に展開した地域的変種と位置づけられる。クノーベルスドルフの死後、フリードリヒ2世の建築趣味は次第に古典主義へ傾き、フリードリヒ式ロココは一代の王の美意識と分かちがたく結びついた、短くも凝縮した様式として歴史に残った。