クメール建築
アンコール・ワット
カンボジア北西部、クメール王朝の都アンコールに立つ世界最大の宗教建造物。12世…
クメール建築(Khmer architecture)は、9世紀から15世紀にかけて、現在のカンボジアを中心に栄えたクメール帝国(アンコール朝)が生み出した建築である。ヒンドゥー教と仏教の宇宙観を、石とレンガの壮大な記念碑として地上に再現した点に、その本質がある。
中心となるのは、神々の住まう聖なる山——須弥山を表した寺院である。階段状に積み上げた基壇の上に、蓮のつぼみを思わせる塔(プラサート)を戴き、しばしば五つの塔を四隅と中央に配して聖山の峰々をかたどった。寺院は濠と貯水池(バライ)に囲まれ、水をたたえた都市と一体に計画された。水は灌漑と豊穣の源であると同時に、世界を取り巻く大海の象徴でもあった。
構造は、まぐさ式とコーベルアーチ(持ち送り)を基本とし、真のアーチやヴォールトはほとんど用いない。そのぶん開口は狭く、内部空間よりも、外へ積み上がる量塊と、壁面を埋め尽くす精緻な浮き彫りに力が注がれた。建材は、初期のレンガから、のちにはラテライトと砂岩へと移り、とりわけ砂岩のきめ細かな彫刻が真骨頂となる。アンコール・ワットの回廊に延々と続く叙事詩の浮き彫りは、その頂点である。
12世紀のアンコール・ワットでヒンドゥー教寺院として極まったのち、王朝の仏教化とともに、アンコール・トムのバイヨンに見る巨大な人面塔など、独自の展開を見せた。15世紀にアンコールが放棄されると、この壮大な石の伝統も静かに幕を閉じた。