ネオムデハル様式
ネオムデハル様式(Neo-Mudéjar)は、19世紀後半のスペインで興った歴史主義建築の一様式である。中世イベリア半島で、キリスト教圏に残ったムスリム系の職人(ムデハル)が育てた化粧煉瓦・幾何学装飾・馬蹄アーチ・アラベスクの伝統を、近代の国民様式として再解釈した。おもに1870年代以降のマドリードとバルセロナを中心に、闘牛場・駅舎・博覧会建築・集合住宅などへ広がっていった。当時のスペインが「自国に固有の様式とは何か」を問うなかで、ゴシック・リヴァイヴァルや新古典主義に代わる「土着の歴史様式」として選び取られたのである。
形態の上では、露出した赤煉瓦による帯状・幾何学的な壁面装飾、馬蹄形や多弁のアーチ、漆喰やタイルの幾何学文様、ムカルナスを思わせる鍾乳石状の装飾、塔状に立ち上がるミナレットの引用などが特徴となる。石材より煉瓦・タイル・テラコッタを多用し、安価で量産しやすい近代の材料と相性がよかった点も、この様式が広まった一因である。代表作にバルセロナ凱旋門(ジュゼップ・ビラセカ、1888年)やマドリードのラス・ベンタス闘牛場があげられる。歴史的にはムデハル様式の再生であり、同時代の他の歴史主義(ネオゴシック・ネオムーア)と並走しながら、やがてモデルニスモ(カタルーニャのアール・ヌーヴォー)の装飾性へと接続していった。