イタリアネイト様式
イタリアネイト様式(Italianate)は、19世紀の歴史主義建築の一潮流で、イタリア・ルネサンスの邸館やトスカーナの農家建築を範としつつ、それを自由に再構成した様式である。考古学的な正確さよりも絵画的(ピクチャレスク)な効果を重んじ、左右非対称の伸びやかな構成を許す点に近代的な性格をもつ。
1830年代のイギリスで、ジョン・ナッシュやチャールズ・バリーらの設計を通じて広まり、ヴィクトリア朝を代表する建築語彙のひとつとなった。やがて北アメリカへ渡ると、安価で施工しやすい木造や鋳鉄の技術と結びついて住宅・商業建築に大流行し、19世紀半ばのアメリカ都市の街並みを形づくった。
形態上の特徴は、低勾配の寄棟屋根とその下に深く張り出す軒、軒を支える装飾的な持送り(コーベル)の連続にある。窓は半円アーチや上部を弧とした形をとり、しばしば縁飾りで強調される。正面には鐘塔(カンパニーレ)を思わせる角塔や見晴らしのよいベルヴェデーレが添えられ、垂直の要素が水平に伸びる量塊に変化を与える。素材は石や煉瓦のほか、型から起こせるテラコッタや漆喰仕上げが多用され、装飾を量産できる点が普及を後押しした。
厳格な左右対称と古典規範を重んじる新古典主義に対し、イタリアネイトはより柔軟で温和な古典性を提供した。同時代のゴシック・リヴァイヴァルが宗教的・国民的な含意を帯びたのに対し、こちらは世俗の邸宅や公共建築にふさわしい性格をもち、後の折衷主義へと接続していった。