北方ルネサンス
北方ルネサンスは、15世紀末から17世紀初頭にかけて、アルプス以北のネーデルラント、ドイツ、フランス、スカンディナヴィアなどで展開した建築様式である。イタリア・ルネサンスが古代ローマの遺構を直接の規範としたのに対し、北方では古典の語彙が版画や書物を通じて間接的に伝わり、在来のゴシックの伝統や地域の素材と混じり合いながら受容された。そのため、古典オーダーの厳密な再現よりも、装飾的で折衷的な造形が好まれた。
形態の特徴は、第一に、煉瓦と砂岩を組み合わせた多彩な壁面である。赤煉瓦の地に明るい砂岩で窓枠や帯状装飾を縁取る手法が、ネーデルラントを中心に広まった。第二に、階段状・渦巻状に立ち上がる装飾的な破風(はふ)である。急勾配の屋根を正面で隠すこの破風は、北方都市の街並みを特徴づけた。第三に、ストラップワークと呼ばれる、革帯を折り曲げたような立体的な装飾文様であり、破風や石の縁飾り、墓碑などに多用された。
代表作には、アントウェルペン市庁舎、ハイデルベルク城のオットハインリヒ館、デンマークのフレデリクスボー城やコペンハーゲンの証券取引所(ボーアセン)などがある。とりわけ商業都市の市庁舎や取引所、貴族の城館に、富と市民的自負を映す様式として好まれた。北方ルネサンスは、ゴシックの垂直性と古典の秩序のあいだに立つ過渡的な様式であり、やがて17世紀のバロックへと吸収されていった。