ザグレブ・クロアチア国立劇場 Croatian National Theatre in Zagreb
ザグレブ中心部、共和国広場に建つネオ・バロックの歌劇場。劇場建築で名高いウィーンの事務所フェルナー&ヘルマーが1894–95年に手がけ、クロアチアの舞台芸術の殿堂となった歴史主義建築の代表作である。
§1 — 概要概要
ザグレブ・クロアチア国立劇場(クロアチア語: Hrvatsko narodno kazalište u Zagrebu、略称HNK)は、クロアチアの首都ザグレブの共和国広場に建つ国立劇場である。オペラ・バレエ・演劇の三部門を擁する同国の舞台芸術の中心であり、黄土色(オーカー)の壮麗なファサードは市を代表する景観の一つに数えられる。1895年に完成したこの建物は、19世紀末ヨーロッパに花開いた歴史主義建築、とりわけネオ・バロックの典型として知られる。
歴史
クロアチアの国立劇場としての歩みは1860年に始まるが、旧劇場は1880年の地震で損傷し、新築の機運が高まった。設計を託されたのは、ウィーンを拠点に中欧各地で劇場を量産していた建築家フェルディナント・フェルナーとヘルマン・ヘルマーの事務所である。1893年秋に最終案がまとまり、1894年春に着工。当時としては驚異的な約16か月の短工期で完成し、1895年10月14日、皇帝フランツ・ヨーゼフ1世の臨席のもとに落成した。広場側の正面には、彫刻家イヴァン・メシュトロヴィッチによる泉「生命の泉」が後の1912年に据えられ、劇場の象徴となっている。
建築的特徴
建物は左右対称の堂々たる構成をとる。ファサードは双柱や半円アーチ、量感ある破風で飾られ、壁面にはクロアチアの詩人や作曲家らの胸像・浮彫がはめ込まれている。内部は馬蹄形の観客席を入れ子状の桟敷が囲み、舞台と客席を仕切るプロセニアム・アーチが視線を舞台へ導く。金箔と天井画で覆われたホワイエや大階段が、観劇前の高揚を演出する。フェルナー&ヘルマーが各地の劇場で磨いた定型――壮麗な歴史主義の意匠と、当時最新の舞台機構・防火設備を組み合わせる手法――が、ここでも遺憾なく発揮されている。
意義・現在
完成から130年を経た現在も、HNKはクロアチア有数の文化施設として現役で機能している。1960年代末には舞台機構の近代化を含む大規模改修を受けたが、ネオ・バロックの基本的な意匠と空間は保たれている。フェルナー&ヘルマーが手がけた数多くの劇場のなかでも保存状態がよく、19世紀ヨーロッパの「劇場建築の黄金時代」を今に伝える建物として、また独立後のクロアチアの文化的自負を象徴する場として重要である。