モスクワ地下鉄の駅。文豪ドストエフスキーにちなみ、灰色の大理石壁に『罪と罰』など代表作の場面を描いた単色の壁画で覆われる。陰鬱な主題が開業前に物議を醸したことでも知られる。
§1 — 概要概要
ドストエフスカヤ駅(ロシア語: Достоевская)は、モスクワ地下鉄リュブリノ=ドミトロフ線(通称「灰色線」)の駅である。19世紀ロシアを代表する作家フョードル・ドストエフスキーにちなんで名づけられ、その作品世界を主題とした内装で知られる。2010年6月19日に開業した。
歴史
駅の構想は古く、ソ連時代からおよそ20年にわたって計画されながら、資金難などで長く実現を見なかった。設計は建築家レフ・ポポフが手がけ、内装の壁画は美術家イワン・ニコラエフが担当した。当初は2010年5月15日、モスクワ地下鉄開業75周年に合わせて開業する予定であったが、約一か月遅れて同年6月19日に開業した。本駅は灰色線の北方延伸の一環として建設され、隣接するマリイナ・ロシチャ駅とともに同日開業している。
建築的特徴
ホームと通路の壁面は、灰・白・黒の大理石で構成され、全体に抑制された無彩色の空間が広がる。無彩色で統一されたその構成は、文豪が描いた19世紀ペテルブルクの陰鬱な空気をも想起させ、主題と空間が静かに呼応している。その大理石面に、ニコラエフによる単色の壁画が描かれる。主題はドストエフスキーの四大長編で、『罪と罰』ではラスコーリニコフが老婆に斧を振り上げる場面、『白痴』『悪霊』『カラマーゾフの兄弟』からの情景が連なる。通路の突き当たりには、作家自身の大きな肖像が据えられ、訪れる者を迎える。
意義・現在
開業に際しては、陰鬱な場面の描写が乗客の心理に影響しかねないとして心理学者らが懸念を表明し、開業の延期にもつながった。美術家ニコラエフは、芸術は娯楽ではなく、批判はドストエフスキー作品の悲劇性への理解を欠くものだと反論している。賛否を呼びながらも、本駅はモスクワ地下鉄のなかで文学を主題とする異色の空間として知られる。豪奢な装飾で「人民の宮殿」と称されてきたモスクワ地下鉄の伝統を、文学的で陰影に満ちた主題へと転じた点でも、特異な事例といえる。