フィシュト・オリンピックスタジアム Fisht Olympic Stadium
ソチ・オリンピック公園の中心に立つ、2014年冬季五輪の開閉会式会場。設計はポピュラス。カフカスの雪嶺とファベルジェの卵に着想した殻状の屋根をもち、五輪後は屋外サッカー場へ改修された。
§1 — 概要概要
フィシュト・オリンピックスタジアムは、ロシア南部ソチのオリンピック公園に立つ大型競技場である。近くのフィシュト山にちなんで名づけられ、2014年のソチ冬季オリンピックおよびパラリンピックの開会式・閉会式の会場として建設された。設計は、ロンドン2012を手がけたスポーツ建築の専門会社ポピュラスが担い、英国のビューロ・ハッポルドが構造を担当した。海と山に挟まれたイメレチア低地に位置し、公園全体の主軸を形づくる中心的存在である。
歴史
スタジアムは2009年にソチ五輪の式典会場として公表され、ポピュラスが設計者に選定された。ロシア側は建築家ドミトリー・ブシュらのチームが実施設計に加わった。五輪本番に向けて2010年前後から建設が進み、2014年2月7日の開会式で初めて公開された。当初は屋根に覆われた閉鎖型の施設として竣工したが、五輪後の2016年に屋根を開いた屋外サッカー場へと改修された。2017年のFIFAコンフェデレーションズカップ、2018年のW杯の会場を経て、現在はロシア・プレミアリーグのPFCソチの本拠地となっている。
建築的特徴
東西の常設スタンドを軸に、南北の端部を開いた馬蹄形に近い構成をとる。最大の見せ場は、半透明のポリカーボネートで葺いた殻状の大屋根である。設計者はこれを、ロシアの工芸を象徴するファベルジェの卵が割れて開く姿になぞらえ、同時にカフカス山脈の雪嶺をも想起させる形とした。南北の開口は、海から山並みへと視線を通す軸線を生み、五輪の聖火台もここに据えられた。ソチは地震活動が活発な地域であり、基礎には東西スタンドを引張で結ぶ帯状の構造を仕込み、地盤の液状化が起きても建物が浮かぶように保つ工夫が施されている。
意義・現在
フィシュトは、ソ連崩壊後のロシアが国際的な大会の開催国としての地位を回復しようとした象徴的事業であり、ソチを夏の保養地から通年型のスポーツ拠点へ転換させる都市計画の核となった。設計を貫くのは、周囲の自然美とロシアの文化的記憶を建築の形に翻訳しようとする姿勢である。可変的な座席計画によって五輪・W杯・クラブの試合と用途を変えながら使い続けられる点で、大会後の遺産(レガシー)を当初から織り込んだ現代スタジアムの好例といえる。