エレバンの戦勝公園に立つ、女性像によるアルメニアの擬人像。1950年のスターリン像の台座を引き継ぎ、1967年に彫刻家アラ・ハルテュニャンの手で据えられた。像高22m、台座を含め約51m。
§1 — 概要概要
「アルメニアの母」(Մայր Հայաստան、マイル・ハヤスタン)は、首都エレバンを見下ろす戦勝公園に立つ記念碑である。剣を携えた女性像によって国そのものを擬人化し、丘の上から都を見守る守護者のように据えられている。
歴史
現在の像は、第二次世界大戦の戦勝記念として1950年に建てられたスターリン像(彫刻家セルゲイ・メルクーロフ作)に代わるものである。台座を設計した建築家ラファエル・イスラエリヤンは、独裁者の栄光は長くは続かないと見越し、台座をアルメニアの三廊式バシリカ教会になぞらえて構想した。直線的な外観に対し、内部は7世紀のスルプ・フリプシメ教会を思わせる明るい空間として設えられている。1962年にスターリン像は撤去され、1967年、彫刻家アラ・ハルテュニャンが手がけた「アルメニアの母」がその上に据えられた。制作にあたっては、店先で見いだされた17歳の少女ゲニャ・ムラディアンが像のモデルを務めたという。
建築的特徴
打ち出した銅板でつくられた像の高さは22mに及び、玄武岩の台座を含めた全体の高さは約51mに達する。台座部分は博物館として使われ、当初は大祖国戦争(第二次大戦)を主題としたが、現在はナゴルノ・カラバフ戦争に関する展示が大きな比重を占める。直線と量塊で構成された台座と、銅で打ち出されたやわらかな像の対比が、この記念碑の造形上の見どころである。
意義・現在
「アルメニアの母」は、力による平和を象徴するとされ、武器を取って戦った歴史上の女性たちや、アルメニアの家族における年長の女性の存在を想起させる。毎年5月9日には多くの市民が像を訪れ、戦没者を悼んで花を手向ける。スターリン像から「母」への置き換えは、ソ連期アルメニアの記憶と政治の転換をそのまま体現する事例でもある。