アルメニア南部、アララト山を望む平原に建つ修道院。聖グリゴル・ルサヴォリチが幽閉された地穴の上に営まれ、アルメニアのキリスト教受容を象徴する巡礼地。現在の聖母教会は1662年の建立。
§1 — 概要概要
ホル・ヴィラップ(Khor Virap、アルメニア語で「深い地穴」の意)は、アルメニア南部アララト地方、トルコ国境にほど近いアララト平原に建つ修道院である。背後にアララト山を仰ぐ立地で知られ、国の守護聖人グリゴル・ルサヴォリチ(啓蒙者グレゴリウス)が幽閉された地穴の上に営まれた巡礼地として、アルメニア教会にとって特別な意味をもつ。
歴史
伝承によれば、グリゴルは王ティリダテス3世によって13年にわたりこの地の穴に閉じ込められたのち、やがて王の改宗を導いた。301年、アルメニアは世界で最初にキリスト教を国教と定めたとされ、その物語の舞台がこの地である。最初の礼拝堂は642年、「建設者」と称されたカトリコス・ネルセス3世によって地穴の上に建てられた。以後たびたび再建を重ね、1662年には旧礼拝堂の遺構を囲うように、聖母にささげる「スルプ・アストヴァツァツィン(聖生神女)」教会が、修道院・食堂・僧房とともに整えられた。これが現在の中心的な建物である。
建築的特徴
現在の聖母教会は、十字形の平面に円錐形の高い屋根をいただくドームを載せる、アルメニア建築の伝統的な構成をとる。凝灰岩を積んだ簡素で重厚な外観に対し、内部は鼓胴(ドラム)を介して天へ抜ける垂直性をもつ。聖グリゴルゆかりの地穴そのものも聖所として保存され、狭い縦坑を梯子でくだって参詣することができる。修道院は石壁に囲まれ、平原のただなかに孤立して立つ。
意義・現在
ホル・ヴィラップは、アルメニアの国家的アイデンティティと信仰の起点を体現する場として、今日もアルメニア有数の巡礼地であり続けている。アララト山を借景にした景観は写真にも繰り返し収められ、修道院では現在も定期的に礼拝が営まれている。