東ローマ皇帝ユスティニアヌス1世が6世紀に建てたコンスタンティノープルの大聖堂。ペンデンティヴに支えられた壮大なドームをもつビザンティン建築の最高傑作で、教会・モスク・博物館と役割を変えながら、いまもイスタンブールにそびえる。
§1 — 概要概要
アヤソフィア(Hagia Sophia、トルコ語: Ayasofya)は、トルコのイスタンブールに立つ大建築で、ビザンティン建築の最高傑作とされる。その名はギリシア語で「聖なる叡智」を意味する。6世紀に東ローマ(ビザンティン)皇帝ユスティニアヌス1世が大聖堂として建て、以来およそ千年にわたり世界最大の教会であり続けた。ペンデンティヴ(穹隅)に支えられて宙に浮かぶかのような大ドームは、建築史に新たな地平を開いた。
歴史
現在の建物は、ニカの乱(532年)で焼けた先代の聖堂に代えて、ユスティニアヌス1世が532年に着工させたものである。皇帝は数学者トラレスのアンテミオスと幾何学者ミレトスのイシドロスという二人の学者に設計を委ね、わずか5年余りののち、537年に献堂された。落成にあたり皇帝は「ソロモンよ、われ汝に勝てり」と称えたと伝えられる。558年の地震でドームの一部が崩れたが、イシドロスの甥にあたる小イシドロスによって、以前より高く架け直された。
長くギリシア正教の大聖堂であったこの建物は、第4回十字軍の時期にはカトリックの聖堂となり、のち正教会に復した。1453年、オスマン帝国のメフメト2世がコンスタンティノープルを攻略すると、聖堂はモスクに改められ、ミナレット(尖塔)やミフラーブ、ミンバルが加えられた。1935年には、世俗化を進めるトルコ共和国のもとで博物館となり、ビザンティンのモザイクが広く公開された。2020年にふたたびモスクとされ、この変更は国際的な議論を呼んだ。
建築的特徴
アヤソフィアの核心は、直径約31メートル、床上約55メートルに達する中央ドームにある。四隅のペンデンティヴが、正方形の平面から円形のドームへの移行をなめらかに解決し、基部に並ぶ無数の窓から差し込む光が、重い石のドームを軽やかに見せる。バシリカ式の細長い平面と、中央集中式のドーム空間とを融合させた構成は、それまでにない空間体験を生んだ。
内部は色大理石の列柱と、金地に輝くモザイクで荘厳された。オスマン時代には、これらの一部が漆喰で覆われる一方、巨大な円形の書字額やミフラーブが加えられ、キリスト教とイスラームの装飾が同じ空間に重なる、独特の景観が生まれた。
意義・現在
アヤソフィアは、ビザンティン建築の到達点であると同時に、後のオスマン帝国のモスク建築、とりわけミマール・スィナンの諸作にも深い影響を与えた。1985年には「イスタンブール歴史地域」の一部としてユネスコの世界遺産に登録されている。教会からモスク、博物館、そして再びモスクへと役割を変えながら、千五百年近くを生き抜いたこの建物は、いまも都市の象徴として人々を集めつづけている。