イスタンブールに建つ6世紀ビザンティン初期の集中式聖堂。ユスティニアヌス1世が聖セルギオスと聖バッコスに捧げ、瓜状のリブを刻む独特の[[dome|ドーム]]を架ける。大ハギア・ソフィアの先駆と目され、オスマン期にモスクへ転用された。
§1 — 概要概要・位置づけ
聖セルギオス=バッコス教会(Church of Saints Sergius and Bacchus)は、現在のトルコ・イスタンブール旧市街に建つ、6世紀ビザンティン帝国初期の集中式聖堂である。隣接する大ハギア・ソフィアとの形態的な類似から、トルコ語で「小さなハギア・ソフィア」を意味するキュチュク・アヤソフィア(Küçük Ayasofya)の通称で広く知られる。
歴史
この聖堂は、ビザンティン皇帝ユスティニアヌス1世とその妃テオドラによって、527年から536年にかけて、ローマ軍の殉教者である聖セルギオスと聖バッコスに捧げて建立された。設計者の名は記録に残っていないが、ほぼ同時期にユスティニアヌスがハギア・ソフィアの造営に起用したトラレスのアンテミオスとミレトスのイシドロスが、その平面の類似から関与した可能性を指摘する説がある。両者はいずれも数学・力学に通じた当時の技術者(メカニコイ)であり、確実な裏づけはないものの、初期ビザンティン建築の革新を担った人物として名が挙げられる。15世紀末から16世紀初頭、オスマン帝国のバヤズィト2世の時代にモスクへと転用され、現在も礼拝施設として用いられている。
建築的特徴
平面は、外周を不規則な多角形の壁で囲み、その内側に八本の柱が支える八角形の中心空間を入れ子とした、複雑な二重殻構造をとる。中央を覆うドームは直径およそ16メートル、頂部までの高さは30メートルを超え、瓜(うり)の断面のように凹凸のリブを放射状に刻んだ「メロン・ドーム」と呼ばれる独特の意匠をもつ。八角形から円形のドームへの移行部にはスキンチが用いられ、列柱は一階のまっすぐな水平梁と二階のアーチを巧みに組み合わせて、流動的で律動感のある内部空間を生み出している。
意義・現在
本聖堂は、方形に近い平面の上にドームを架けるという、後のビザンティン建築の中心課題に正面から取り組んだ初期の実例であり、数年後に着工される大ハギア・ソフィアの構造的・空間的な実験場であったとする評価が定着している。教会からモスクへと用途を変えながら1500年近く使われ続けてきたこの建築は、イスタンブールが重ねてきた宗教と文化の重層性を、一棟のうちに体現する貴重な記念物である。