モスクワ地下鉄ザモスクヴォレツカヤ線の駅。近隣の北河川ターミナルにちなんで名づけられ、1964年に開業した。フルシチョフ期の規格型〈柱間三スパン〉設計による、装飾を切り詰めた経済的な地下駅である。
§1 — 概要概要
レチノイ・ヴァクザール駅(Речной вокзал、「河川ターミナル」の意)は、モスクワ地下鉄ザモスクヴォレツカヤ線の駅である。モスクワ北部の左岸地区に位置し、近郊のモスクワ運河に臨む北河川ターミナルにちなんで名づけられた。1964年12月31日、ヴォドニィ・スタジアム駅・ヴォイコフスカヤ駅とともに開業し、2017年まで同線の北の終着駅であった。シェレメーチエヴォ国際空港に最も近い地下鉄駅の一つでもある。
歴史
モスクワ地下鉄の初期の駅は、宮殿を思わせる豪奢な装飾で「地下の宮殿」と称された。しかし1955年、建築における過剰な装飾を戒める党の決定が出されると、地下鉄駅の設計も一変する。本駅が開業した1960年代は、施工を標準化し、装飾を切り詰めた経済的な駅が量産された時代であった。レチノイ・ヴァクザール駅もその一例で、設計はニコライ・デムチンスキーとユリヤ・コレスニコワが担当した。開業当時は地下鉄網の最北端にあたり、北郊の住宅地と都心を結ぶ要として機能した。
建築的特徴
この駅は、1960年代に広く採用された規格型の「柱間三スパン」設計による。中央のホームを二列の柱が支え、その整然と並ぶ細い角柱から、ロシアでは俗に「ムカデ駅(ソローカノージカ)」と呼ばれる類型である。柱には白い斑の入った褐色の大理石が張られ、壁面はタイルで仕上げられる。スターリン期の駅に比べれば意匠は格段に控えめだが、限られた素材のなかで色調を整え、規格設計に一定の品位を与えている。地上には、フェスティヴァリナヤ通りと幹線道路の交差点に二つの同形の駅舎が建つ。
意義・現在
レチノイ・ヴァクザール駅は、ソ連の地下鉄建築が「記念碑」から「インフラ」へと舵を切った転換期の産物である。華美を排した規格駅は、戦後の急速な都市拡大に応えるための合理的な解答であり、同時代に各線で量産された。半世紀を経た現在も現役で、空港アクセスの結節点として多くの乗客を迎えている。一見地味なこの駅は、政治の号令が建築の様式を直に左右したソヴィエト建築史の一断面を、静かに伝えている。