テヘラン北部シェミラーンの王宮複合体。19世紀ガージャール朝の避暑地に始まり、20世紀のパフラヴィー朝下で18の宮殿群へと拡張された、ペルシアと西欧の様式が融合するイランの近代王宮である。
§1 — 概要概要
サアダーバード宮殿(ペルシア語: کاخ سعدآباد)は、テヘラン北部、アルボルズ山麓のシェミラーン地区に広がる王宮複合体である。約110ヘクタールの庭園のなかに18の宮殿・館が点在し、ガージャール朝からパフラヴィー朝にかけて造営された。イラン革命後の1979年以降は公開され、複数の博物館を擁する文化施設となっている。
歴史
この地はもともと、19世紀のガージャール朝の王たちが避暑に用いた庭園であった。1921年のクーデターを経てパフラヴィー朝が成立すると、レザー・シャーは1920年代からこの地を本格的に整備し、住居をいくつも建てた。最初の宮殿である緑宮(シャフヴァンド宮)は、ミルザ・ジャファルらの手で1920年代に造られ、ザンジャーン産の緑色の石を張ったことからその名を得た。複合体最大の白宮(メッラト宮)は、ホルサンディとロシア人技師ボリスの設計により1930年代に建てられた。1941年にレザー・シャーが退位したのち、その子モハンマド・レザー・シャーは1970年代に居をここへ移した。1979年の革命後、複合体は国有化されて博物館群となった。
建築的特徴
複合体の建築は、ペルシアの伝統と西欧の様式を折衷した点に特徴がある。各宮殿は時代と用途に応じて意匠を異にし、漆喰彫刻・鏡細工・タイル・寄木細工といったイラン伝統の装飾と、ローマ風の円柱や新古典主義的な構成とが併存する。白宮は正面に4本のローマ風大理石円柱を据え、内部に10の大広間を含む54の部屋を擁する。緑宮は鏡張りの広間で名高い。低層の建物群は庭園と一体に配され、開かれた空間に豊かな採光を取り込む構成をとる。
意義・現在
サアダーバード宮殿は、ガージャール朝の避暑地からパフラヴィー朝の王宮、そして共和国の博物館へと用途を変えてきた、近代イランの歩みを凝縮する場である。複数の建築家・職人の手による折衷的な宮殿群は、20世紀のイランが西欧の近代と伝統との均衡を模索した姿を映す。現在は白宮・緑宮をはじめとする宮殿が、美術・歴史・装飾の各館として公開され、テヘラン有数の文化的名所となっている。隣接地には現在のイラン大統領府が置かれ、複合体はイランの国定遺産に登録されている。