アゼルバイジャンの首都バクー、カスピ海沿いの遊歩道に建つ人形劇場。1910年にポーランド人建築家プウォシュコがフレンチ・ルネサンス様式の映画館「フェノメン」として建て、1931年から人形劇の拠点となった。
§1 — 概要概要
バクー人形劇場(Baku Puppet Theatre、アゼルバイジャン語: Azərbaycan Dövlət Kukla Teatrı)は、アゼルバイジャンの首都バクーの海岸通り(ネフチーラル大通り)に建つ劇場である。カスピ海に面したバクー大通りの一角を占め、19世紀末から20世紀初頭の石油景気がもたらした華やかな都市建築の一例として知られる。建物は当初から人形劇場として建てられたものではなく、映画館・劇場・博物館と用途を変えながら今日に至っている。
歴史
建物は1909年に着工し、1910年に映画館「フェノメン(Fenomen)」として開業した。設計はバクーで活躍したポーランド出身の建築家ユゼフ・プウォシュコによる。開業当時は15分ごとに空気を入れ替える先進的な換気装置を備え、市内有数の娯楽施設として注目を集めた。1921年にはアゼルバイジャンの建築家ズィヴァル・ベイ・アフマドベヨフによって風刺劇場「サティラギト」用に大きく改築された。その後も用途は転々とし、人形劇団がこの建物に拠点を構えたのは1931年のことである。1932年に最初の人形劇『サーカス』を上演し、1974年には作家アブドゥッラ・シャイグの名を冠した。
建築的特徴
正面は高い基壇(スタイロベート)の上にイオニア式の大型ピラスターを並べ、頂部を欄干状のアッティカで締めくくる、フレンチ・ルネサンスの語彙を引いた折衷的な構成をとる。左右の翼に配された二つの塔が輪郭に変化を与え、中央のやや前に張り出した入口にはアーチを頂く階段が導く。建物の角の壁龕にはメルクリウス、バックス、ポセイドン、アフロディーテという神話の四神像が据えられ、建築と彫刻を一体に扱うプウォシュコの手法をよく示している。これらの像は時代によって撤去と復元を繰り返した。
意義・現在
オイルブームに沸いた帝政期バクーの都市文化を伝える建物として、また旧ソ連圏でも有数の歴史を持つ人形劇場として親しまれている。約210席の親密な客席を備え、アゼルバイジャンの民話や古典を題材とした人形劇を、アゼルバイジャン語とロシア語で上演し続けている。バス停や地下道にもその名が冠され、海岸通りの界隈を代表する文化的なランドマークとなっている。