サン・ジョヴァンニ洗礼堂 Baptistry of San Giovanni
イタリア・ピサのドゥオモ広場に建つ円形の洗礼堂。1152年に着工し1363年に完成したイタリア最大の洗礼堂で、下部のロマネスクから上部のゴシックへと様式の移行を一身に体現する。
§1 — 概要概要
サン・ジョヴァンニ洗礼堂(Battistero di San Giovanni)は、イタリア・トスカーナ州ピサのドゥオモ広場(通称「奇跡の広場」)に建つ円形の洗礼堂である。大聖堂・鐘楼(ピサの斜塔)・墓所カンポサントとともに広場を構成し、直径約34メートル・高さ約55メートルとイタリア最大の規模をもつ。約二百年に及ぶ建設の過程で、下部のロマネスクから上部のゴシックへと様式が移り変わった点に最大の特色がある。
歴史
建設は1152年、建築家ディオティサルヴィの指揮のもとに始まった。彼は基部を半円アーチと簡素な彫刻によるロマネスク様式でまとめたが、その後ニコラ・ピサーノとその子ジョヴァンニ・ピサーノが事業を継ぎ、上層を尖頭アーチと豊かな彫刻装飾によるゴシック様式へと転じた。ドーム部の造営にはチェッリーノ・ディ・ネーゼらが関わり、全体は1363年に竣工した。大聖堂や斜塔と同じく軟弱な砂地の上に建てられたため、洗礼堂もわずかに大聖堂側へ傾いている。
建築的特徴
外壁は、白を基調にカッラーラ産大理石と青灰色の石を水平に重ねた二色構成で、トスカーナの主要聖堂に共通する装飾語法を示す。下層には連続するブラインドアーケードが巡り、上層には小尖塔(ヴィンパーグ)と彫刻群が密に配される。大聖堂正面に向く東扉口は古典的な柱を写した装飾をもち、月暦やキリスト伝を表す浮彫で飾られる。半球形の外殻ドームがディオティサルヴィ当初の角錐屋根を包み込む構成は、長い工期のなかで様式が重層した結果である。
意義・現在
ピサ洗礼堂は、ロマネスクからゴシックへの過渡を一棟のうちに読み取れる希有な建築として高く評価される。内部はその長い残響でも知られ、ピサ・ロマネスクの彫刻と相まって中世トスカーナの造形を今に伝える。1987年にドゥオモ広場の構成資産としてユネスコ世界遺産に登録され、現在も多くの巡礼者・観光客を迎えている。