ベレンの塔 Belém Tower
リスボンのテージョ川河口に建つマヌエル様式の要塞塔。大航海時代の出航と帰着を見守った象徴的建造物で、世界遺産に登録されている。
§1 — 概要概要
ベレンの塔は、ポルトガル・リスボンのテージョ川河口に建つ16世紀の要塞塔である。マヌエル様式(ポルトガル後期ゴシック)を代表する建築の一つで、川を守る砲台と物見の塔を兼ね、大航海時代における船の出航と帰着を見守った。装飾豊かな石彫と、川面に張り出した小塔の連なりが特徴的で、対岸のジェロニモス修道院とともに世界遺産に登録され、ポルトガルの海洋進出の記憶を今に伝える象徴的存在となっている。
歴史
塔は国王マヌエル1世の命により、テージョ川河口の防衛拠点として1514年に着工され、1519年に完成した。設計を担ったのは軍事建築家フランシスコ・デ・アルーダで、彼はモロッコのポルトガル領で要塞建設に携わった経験から、ムーア風の意匠をこの建築に取り入れた。建設には、近隣のジェロニモス修道院と同じリオス石灰岩が用いられている。19世紀半ばには荒廃した塔の修復が行われ、ネオ・マヌエル様式による補修が加えられた。1907年にポルトガル国定記念物に指定され、1983年には世界遺産に登録されている。
建築的特徴
塔は稜堡(りょうほ)状の砲台と、その背後にそびえる四層の塔屋とから構成される。外壁には王権の象徴である渾天儀や、十字を組み合わせたキリスト騎士団の紋章、海をかたどった綱目の文様などが豊かに刻まれ、マヌエル様式特有の濃密な装飾を示す。川面に張り出した各所には、イスラーム建築に由来する小ぶりの張り出し小塔が円屋根を戴いて連なり、独特の輪郭を生んでいる。砲台の一角には、1515年にインドからもたらされた犀をかたどった石の樋嘴(といはし)が据えられ、これはヨーロッパ美術における犀の表現として最初期のものに数えられる。
意義・現在
ベレンの塔は、ポルトガルがマヌエル様式という独自の建築語彙を生み出した大航海時代の精華であり、軍事建築でありながら祝祭的なまでに装飾を凝らした希有な作例である。テージョ川に臨んで建つその姿は、海へと乗り出した時代のポルトガルを象徴するモニュメントとして広く親しまれてきた。今日では世界遺産として保護され、リスボンを代表する名所の一つとして、世界中から訪れる人々を迎えつづけている。