メキシコ中央高原、メキシコシティ北東に広がる古代都市の遺跡。紀元前後に計画都…
メキシコ・ユカタン半島に栄えたマヤの都市遺跡。中心にそびえる神殿ピラミッド「エル・カスティーヨ」は、春分・秋分の日に羽毛の蛇が降りるかのような影の現象で知られる。マヤの天文知識を結晶させた世界遺産である。
§1 — 概要チチェン・イッツァは、メキシコ・ユカタン半島に栄えたマヤの都市遺跡である。地名は「イッツァ族の泉のほとり」を意味し、地下水をたたえる泉(セノーテ)のかたわらに開けた。中心にそびえる神殿ピラミッド「エル・カスティーヨ」は、ククルカン(羽毛の蛇)を祀る建築で、マヤの天文と暦の知識を石に結晶させた、メソアメリカ屈指の名建築として知られる。
集落は古典期(およそ6世紀ごろ)に開け、9世紀から12世紀にかけて、政治と宗教の一大中心として最盛期を迎えた。この時期に、エル・カスティーヨをはじめ、大球技場、戦士の神殿、円形の天文台「エル・カラコル」など、現在見られる主要な建築が整えられた。マヤとトルテカの伝統が融合した様式が特徴である。やがて都市は衰え、放棄されたが、廃墟は密林のなかに残り、19世紀以降に調査が進められた。
エル・カスティーヨは、九層の段からなる階段ピラミッドで、四面それぞれに91段の階段をもつ。四方の段と頂上の神殿を合わせると段数は365となり、一年の日数に対応する。春分・秋分の日の午後、北側階段の縁に三角形の影が連なり、基部の蛇頭の彫刻へと続いて、羽毛の蛇が降りてくるかのように見える。マヤの建築は、石を内へせり出させて天井を覆うコーベルアーチを多く用い、室内に独特の鋭い空間をつくる。
チチェン・イッツァは、マヤの天文学・数学・建築が一体となった、メソアメリカ文明の到達点を示す遺跡である。1988年にユネスコ世界遺産に登録され、2007年には「新・世界七不思議」の一つにも選ばれた。今日もメキシコで最も多くの人が訪れる遺跡の一つであり、春分の日には影の現象を見ようと数万の人々が集まる。