コンスタンツァ・カジノ Constanța Casino
黒海に面したルーマニア・コンスタンツァの海岸に建つアール・ヌーヴォーの旧カジノ。ダニエル・ルナールの設計で1910年に開場し、貝殻を思わせる装飾でベル・エポックの華やぎを今に伝える街の象徴である。
§1 — 概要概要
コンスタンツァ・カジノ(Cazinoul din Constanța)は、ルーマニア東部、黒海に臨むコンスタンツァの海岸に建つ旧カジノである。1910年に開場したアール・ヌーヴォーの建築で、海をモチーフとした華麗な装飾をまとい、ベル・エポックの保養地文化を体現する街の象徴として知られる。
歴史
この地には1880年以来、木造の娯楽館が建っていたが、20世紀初頭、国際的な保養地にふさわしい本格的なカジノの建設が決まった。1903年に建築家ダニエル・ルナールが設計者に選ばれ、翌年から工事が始まる。しかし政権交代によってルナールは一時更迭され、後任のペトレ・アントネスクがネオ・ルーマニア様式の案を立てて基礎を打ち直した。1907年に自由党が復権するとルナールが再起用され、当初のアール・ヌーヴォー案へと立ち返って三たび基礎を据え、1910年8月に落成した。基礎が三度も改められた経緯は、この建物の数奇な誕生を物語る。
建築的特徴
海に向かって張り出すポルティコ付きの大テラスを中心に据え、正面には扇形の大きなステンドグラスがはまる。外壁には貝殻形の窓、牡羊の頭部、海藻をかたどった花綱など、海にちなむ意匠がちりばめられている。地階にはルーマニアの技師サリニーが考案した鉄梁の架構が用いられ、当時の先端的な技術が投じられた。
意義・現在
本館は、海辺の社交の舞台として往時のコンスタンツァを彩り、ルーマニアにおけるアール・ヌーヴォーを代表する建築となった。開場後はヨーロッパ有数のカジノとして賑わい、その大胆な様式は称賛と批判の両方を呼んだ。二度の大戦では野戦病院や軍の宿舎に転用され、戦後は文化の家として使われたのち、長く放置されて荒廃した。ルーマニア政府により歴史的記念物に指定され、数年に及ぶ修復を経て、2025年に一般公開が再開された。