ドゥカーレ宮殿 Doge's Palace
イタリア・ヴェネツィアの旧共和国政庁。1340年ごろに始まるゴシック様式の宮殿で、フィリッポ・カレンダーリオらが造営を主導した。軽快な列柱と市松模様の壁面からなる「花のゴシック」を代表し、ヴェネツィアン・ゴシックの最高傑作とされる。
§1 — 概要概要
ドゥカーレ宮殿(Palazzo Ducale、ドージェ宮殿)は、イタリア・ヴェネツィアのサン・マルコ広場に面して建つ、旧ヴェネツィア共和国の政庁である。元首(ドージェ)の居所であり、評議会や法廷、行政の中枢が置かれた。教会堂ではなく共和国の世俗的権力を表現するためのゴシック建築という点で特異であり、ヴェネツィアン・ゴシックの最高傑作とされる。
歴史
現在の宮殿は1340年ごろに始まるゴシック様式の建設に由来する。棟梁ピエトロ・バセッジョと建築家・石工彫刻家フィリッポ・カレンダーリオが造営を主導したが、カレンダーリオは1355年、ドージェ・マリーノ・ファリエロの陰謀に連座したとして処刑された。その後ボン父子が西側の翼と装飾的なカルタ門を手がけている。1483年の火災を契機に、アントニオ・リッツォがルネサンス様式で中庭側を再建し、壮麗な「巨人の階段」を加えた。こうして宮殿はゴシックとルネサンスが重なり合う複合体となった。
建築的特徴
最大の特徴は、太い柱廊の地上階の上に、尖頭アーチの開放的な二層目を載せ、その上にさらに重厚な壁面を置くという、通常の重量と開口の関係を反転させた構成にある。最上部には市松模様の大理石を張った壁を載せることで、重い壁が軽い列柱の上に浮かぶように見え、宮殿に独特の軽快さを与えている。石のトレーサリーと四つ葉模様の透かしは精緻で、ビザンティンやイスラームの装飾感覚を吸収したヴェネツィア独自のゴシックを示す。中庭ではルネサンス期の彫刻と階段が共存する。
意義・現在
その軽やかで装飾的な様式は「花のゴシック」と呼ばれ、19世紀にはジョン・ラスキンの著作を通じて各国のヴェネツィアン・ゴシック復興に影響を与えた。1797年のナポレオン占領によって共和国が滅びた後、宮殿は美術館として転用され、現在はユネスコ世界遺産「ヴェネツィアとその潟」の一部として登録されている。サン・マルコ広場の景観を形づくる中核として、年間多数の来訪者を迎えている。
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