ゲルチュタール橋 Göltzsch Viaduct
ドイツ・ザクセン州の鉄道橋。1851年完成の世界最大の煉瓦橋で、高さ78メートル、四層98のアーチを2600万個の煉瓦で築く。シューベルトが構造計算にもとづいて設計した、工学史に名高い橋である。
概要
ゲルチュタール橋(Göltzschtalbrücke / Göltzsch Viaduct)は、ドイツ南東部ザクセン州のフォークトラント地方にある鉄道橋である。ゲルチュ川の深い谷をまたぎ、高さ78メートル、長さ574メートル、四層に積み重なる98のアーチを、2600万個もの煉瓦で築く。世界最大の煉瓦造の橋であり、完成当時は世界一高い鉄道橋でもあった。19世紀の煉瓦工学の頂点として知られる。
歴史
ライプツィヒとホーフを結ぶザクセン=バイエルン鉄道の建設にあたり、最大の難所がこのゲルチュ渓谷であった。鉄道会社は1845年に懸賞付きの設計競技を催し、81もの案が寄せられたが、いずれも鉄道荷重に耐えうることを構造計算で証明できなかった。そこで審査委員長を務めた工学者ヨハン・アンドレアス・シューベルト(Johann Andreas Schubert)が自ら設計に乗り出す。彼は当時生まれたばかりの構造解析の手法を用いて橋にかかる力を計算し、その安定を数理的に裏づけた。ゲルチュタール橋は、世界で初めて厳密な構造計算にもとづいて設計された橋となった。
1846年に起工する。だが地盤が想定より軟弱と判明し、計画は一度だけ大きく変更された。主任技師ロベルト・ヴィルケ(Robert Wilke)は、谷の中央に並ぶ小アーチを一つの大きなアーチに置き換えてこれを解決する。橋の中央が左右より大きく開く独特の姿は、この苦心の産物である。建材には近隣で安価に得られる煉瓦が選ばれ、特に荷重のかかる箇所にのみ花崗岩が用いられた。およそ20の煉瓦工場が日々大量の煉瓦を焼き、延べ千七百人余りが工事にあたって、1851年7月15日に開通した。
建築的特徴
ゲルチュタール橋は、煉瓦という素材の可能性を極限まで引き出した構造物である。谷底から立ち上がる橋脚を、四層に重なる半円アーチが結び、上へ向かうほど軽やかに見せる。各アーチの架設には木製の支保工が組まれ、そのために二万本を超える木材が伐り出された。装飾はほとんどなく、整然と反復するアーチそのものが、力の流れを目に見える秩序として立ち上げている。シューベルトが計算によって導いた形は、機能がそのまま美となる、近代土木の一つの原型でもあった。
意義・現在
ゲルチュタール橋は、経験と勘に頼ってきた橋づくりを、計算にもとづく工学へと転換させた記念碑的な構造物である。その手法は、以後のヨーロッパの橋梁設計にも影響を与えた。第二次大戦末期には独軍が爆破を計画したが実行されず、橋は無傷で残った。完成から170年あまりを経た今も現役の鉄道橋であり、高速のチルト式列車が日々この谷を渡っている。2009年にはドイツの「工学技術の歴史的建造物」に選ばれた。
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