モスクワ南部、ザモスクヴォレツカヤ線の駅。1984年に開業した浅層の単アーチ式駅で、中央軸に並ぶピンク色大理石の支柱と、彫刻家キバリニコフによる彫刻群で知られる。
§1 — 概要概要
カンテミーロフスカヤ駅(Кантемировская)は、モスクワ地下鉄ザモスクヴォレツカヤ線(2号線)の駅である。市南部のツァリツィノ地区に位置し、1984年に南方への路線延伸にあわせて開業した。スターリン時代の絢爛な「地下宮殿」とは対照的に、規格化と経済性を重んじた後期ソビエト地下鉄の設計思想を示す一例である。駅名は近くのカンテミーロフスカヤ通りに由来し、同通りは第二次世界大戦で活躍した第4親衛カンテミーロフスカヤ戦車師団にちなむ。
歴史
1955年の「設計・建設における過剰の除去に関する決議」以降、モスクワの地下鉄は装飾を抑えた規格設計へと転換した(華麗なスターリン建築の時代の終焉)。本駅もその流れのなかで、市街地の拡大に伴う南部延伸の一環として建設された。リミダルフ・ポグレブノイとヴラジーミル・フィリッポフが設計を担当している。1984年12月30日に開業したが、翌日に発生した浸水のため即座に閉鎖され、復旧を経て1985年2月9日に再開した。プラットフォームの一端には、彫刻家アレクサンドル・キバリニコフによる彫刻群が設置されている。
建築的特徴
カンテミーロフスカヤは単アーチ式の浅層駅である。単アーチ式は、ひとつの大きな半円ヴォールトで島式ホーム全体を覆う構造で、柱列をもたない見通しのよい空間が特徴となる。ホーム中央の軸線にはピンク色の大理石を張った低い支柱が並び、ベンチや案内表示を受け止める。壁面は褐色の大理石で仕上げられ、抑制された色調のなかに素材の質感を際立たせている。華美な装飾を排しつつ、石材の選択と彫刻の配置によって空間に品位を与える点に、1980年代の設計の特徴がうかがえる。
意義・現在
本駅は、経済性を優先した規格設計が主流となった時代にあって、単アーチ式という比較的開放的な形式を採り、彫刻を組み込むことで均質化に抗した事例といえる。スターリン期の絢爛さからも、1960年代の徹底した実用主義からも距離を置く、後期ソビエト地下鉄のひとつの到達点である。現在もザモスクヴォレツカヤ線の駅として日常的に利用されている。