スペイン南東部ムルシアの大聖堂。14世紀末にゴシック様式で着工され、ルネサンスの鐘塔と18世紀バロックの壮麗な西正面(イマフロンテ)を加えて、数世紀にわたる様式の重層を一身に示す。
§1 — 概要概要
ムルシア大聖堂(Catedral de Murcia、正式名称サンタ・マリア大聖堂)は、スペイン南東部、ムルシア州の州都ムルシアに建つカトリックの司教座聖堂である。カルタヘナ司教区の中心教会であり、内部はおおむねゴシック様式、西正面(イマフロンテ)はバロック、鐘塔はルネサンスからバロックにかけての要素を併せもつ。14世紀末の着工から18世紀まで断続的に造営が続いたため、一つの建物に複数の様式が積層している点に特色がある。
歴史
建設地には、レコンキスタ以前のムルシアの大モスク(アルハマ)があった。13世紀半ばに都市を奪回したアラゴン王ハイメ1世が、これを聖母マリアに捧げて聖別したと伝わる。大聖堂そのものの造営は14世紀に入って本格化し、1385年に基礎工事が始まり、1388年に礎石が据えられた。身廊の建設はその後も続き、ゴシックの聖堂本体は1467年にひとまず完成をみた。以後も増改築は止まず、16世紀にはルネサンス様式の鐘塔の建設が始まり、18世紀には正面と塔が最終的な姿に整えられた。西正面は1737年から1754年にかけて、バレンシア出身の建築家ハイメ・ボルト・イ・メリアの設計で築かれた。
建築的特徴
平面は身廊と側廊から成るゴシックの構成を基礎とし、内部空間には尖頭アーチやリブ・ヴォールトが用いられている。最大の見どころは、ボルトが手がけた西正面イマフロンテである。中央扉口を中心に彫刻と曲面が密に組み合わされ、光と影の劇的な効果を狙ったスペイン・バロックの代表的作例とされる。高さ約95メートルの鐘塔はスペイン有数の高さをもち、下層のルネサンス様式から上層のバロック・新古典的な意匠まで、建設期ごとの様式変遷がそのまま積み上がっている。側面のベレス礼拝堂などには、後期ゴシックや初期ルネサンスの精緻な装飾も残る。
意義・現在
ムルシア大聖堂は、ゴシックの骨格にルネサンスとバロックの装飾が重なる、スペイン建築の様式的重層を一棟で読み取れる建物である。とりわけイマフロンテは、18世紀ムルシアのバロック文化を象徴する造形として高い評価を受ける。スペインの国民的文化財(bien de interés cultural)に指定され、現在もカルタヘナ司教区の司教座聖堂として礼拝に用いられている。主祭壇の下には、カスティーリャ王アルフォンソ10世(賢王)の心臓と内臓が、その遺言に従って納められている。