フィレンツェのアルノ川に架かる中世の石橋。1345年に完成し、橋上に並ぶ宝飾店と、上層を貫くヴァザーリの回廊で知られる。第二次大戦で市内の橋のうち唯一破壊を免れた橋でもある。
§1 — 概要概要
ヴェッキオ橋(Ponte Vecchio/「古い橋」の意)は、イタリア・フィレンツェの中心部でアルノ川に架かる石造のアーチ橋である。橋上の両側に商店が連なる独特の景観と、上層を抜けるヴァザーリの回廊で知られ、フィレンツェ歴史地区を代表する記念物のひとつとされる。
歴史
現在の橋は、1333年の洪水で先代の橋が流失したのち、1335年に着工し1345年に竣工したものである。設計は建築家ネリ・ディ・フィオラヴァンテに帰せられることが多い(16世紀のヴァザーリはタッデオ・ガッディの作と記したが、近年の研究では否定的に解されている)。当初は肉屋・皮なめし職人・農産物商などが店を構えたが、悪臭を嫌った大公フェルディナンド1世の1593年の布告により、以後は宝飾・金細工の店に限られた。1565年にはジョルジョ・ヴァザーリが、ヴェッキオ宮殿とピッティ宮殿を結ぶ空中通路「ヴァザーリの回廊」を橋の東側上層に通した。第二次世界大戦末期の1944年、退却するドイツ軍はフィレンツェの橋を次々と破壊したが、この橋だけは爆破を免れた。
建築的特徴
橋は3つのセグメント・アーチ(扁平な弧を描くアーチ)で川幅を渡す。当時主流だった半円アーチに比べ、迫り上がりを抑えた偏平なアーチは、少ない橋脚で長い径間を架けられ、水の流れを妨げにくい。中央のアーチが両側よりやや大きく、橋面はゆるやかに盛り上がる。両側に張り出して建つ商店群は、後方を持ち送りで支えて川面側へせり出し、橋と一体の街並みを形づくっている。
意義・現在
ヴェッキオ橋は、橋上に都市生活が乗る「住居橋」の代表例であり、商業・通行・居住が重なり合った中世都市の姿を今に伝える。現在は車両通行止めの歩行者専用橋として、ドゥオーモ側とオルトラルノ地区を結ぶ動線の一部をなす。1982年に登録された世界遺産「フィレンツェ歴史地区」の構成資産であり、川面に映る店舗のシルエットは市を象徴する眺めとして親しまれている。