モスクワ地下鉄7号線の駅。1975年に開業し、詩人プーシキンの生きた19世紀前半を想起させる装飾で、1960年代の簡素な機能主義から再び華麗な地下空間へと転じた一例として知られる。
§1 — 概要概要
プーシキンスカヤ駅は、モスクワ地下鉄7号線(タガンスコ=クラスノプレスネンスカヤ線)の駅である。1975年12月、クズネツキー・モスト駅とともに開業し、それまで別系統であった二つの路線を一本に結ぶ区間を完成させた。駅名はロシアの国民的詩人アレクサンドル・プーシキンにちなみ、その装飾は、詩人が生きた19世紀前半の雰囲気を地下に再現することを主題としている。
歴史
モスクワ地下鉄の駅は、開業時期によって意匠の方針が大きく異なる。1930〜50年代の駅は宮殿のように華美であったが、1955年以降はフルシチョフの「過剰な装飾の排除」方針のもとで簡素な機能主義へと転じた。プーシキンスカヤ駅は、この流れを反転させた駅として位置づけられる。設計はヴドヴィンとバジェノフが担い、1960年代の簡素な経済設計に区切りをつけ、ふたたび物語性をそなえた装飾的空間を地下にもたらした。地上の出入口はモスクワ中心部、プーシキン広場の地下に置かれ、1979年には隣接するザモスクヴォレツカヤ線のトヴェルスカヤ駅と乗換で結ばれた。
建築的特徴
構造は、中央ホールと両側のプラットフォームを三つのヴォールトが覆う「三ヴォールト式」で、1950年代以降モスクワでは久しく採られていなかった形式である。柱は「コエルガ」産の白大理石で覆われ、棕櫚の葉を象ったレリーフで飾られる。灰色大理石の壁面には、プーシキンの作品に取材した真鍮の象嵌が点在し、天井からは19世紀風のシャンデリアが下がる。灯具は蝋燭を模した二列のかさ(プラフォン)を連ね、灰色花崗岩の床とあわせて、地下に古典的な舞台を立ち上げている。
意義・現在
プーシキンスカヤ駅は、戦後の機能主義一辺倒に終止符を打ち、装飾と主題性を地下空間に取り戻した転換点として評価される。路線の乗換結節点として今日も多くの利用者を迎え、詩人の名を冠した装飾とともに、モスクワ地下鉄の「地下宮殿」の系譜を後期まで伝える駅となっている。