ゼウス神殿(オリンピア) Temple of Zeus in Olympia
古代ギリシア、オリンピアの聖域アルティスに建てられたゼウスを祀る神殿。前470年頃から前456年にかけてエリスのリボンが設計し、ペロポネソス最大のドーリア式神殿となった。内部には世界の七不思議に数えられたフェイディアスのゼウス像が安置されていた。
§1 — 概要概要
ゼウス神殿は、古代ギリシアの聖地オリンピアにあった、主神ゼウスを祀るドーリア式の神殿である。オリンピア競技の舞台となった聖域アルティスの中心に建ち、当時のペロポネソス半島で最大規模を誇った。内部には、彫刻家フェイディアスによる黄金と象牙の巨大なゼウス座像が安置され、古代世界の七不思議のひとつに数えられた。神殿そのものは現在、地震などで倒壊した列柱の残骸を残すのみだが、古典期ドーリア式建築の完成形として建築史に重要な位置を占める。
歴史
神殿は、エリスが近隣のピサとの戦いに勝利した際の戦利品を資金に、前470年頃から造営が始まり、前456年頃に完成したとされる。設計を担ったのは、地元エリス出身の建築家リボンである。完成からおよそ十数年の後、エリス人は競争相手のアテネに対抗して名匠フェイディアスを招き、神殿の本尊となるゼウス像を制作させた。神殿は古代を通じて崇敬を集めたが、ローマ期以降に衰え、5世紀には皇帝の命で焼かれ、後の地震によって列柱も倒壊した。
建築的特徴
神殿は周柱式(ペリプテロス)で、正面に6本、側面に13本のドーリア式円柱をめぐらせる。柱は地元産の貝殻石灰岩を芯とし、表面を白い化粧漆喰で仕上げていた。前後にプロナオス(前室)とオピストドモス(後室)を対称に配し、内部のケラ(本室)は二列の柱で三廊に分けられていた。妻側のペディメントと、ヘラクレスの十二の功業を主題とするメトープの彫刻は、初期古典期(厳格様式)を代表する彫刻として名高い。簡潔で力強い比例は、後のパルテノン神殿にも影響を与えた。
意義・現在
ゼウス神殿は、ドーリア式建築が到達した古典的均衡の典型として、また古代オリンピアの宗教的・政治的中心として、ギリシア建築史の核に位置づけられる。20世紀の発掘では、フェイディアスの工房跡から「私はフェイディアスのもの」と刻まれた杯などが見つかり、ゼウス像の制作年代を裏づけた。現在、神殿跡を含むオリンピアの考古遺跡は1989年にユネスコの世界遺産に登録され、出土した彫刻はオリンピア考古博物館に展示されている。