トロント市庁舎 Toronto City Hall
カナダ・オンタリオ州トロントの市庁舎。フィンランドの建築家ヴィルヨ・レヴェルの設計で1965年に開庁し、湾曲した二棟の塔が円盤状の議場を抱く造形から「都市の眼」と称される戦後モダニズムの象徴。
§1 — 概要概要
トロント市庁舎(Toronto City Hall、ニュー・シティ・ホール)は、カナダ・オンタリオ州トロントの市政の中枢であり、市を代表するランドマークである。高さの異なる湾曲した二棟の塔が、円盤状の市議会議場を左右から抱く独特の構成で知られ、平面の形から「都市の眼(The Eye)」とも呼ばれる。前面にはネイザン・フィリップス広場が一体的に設けられている。
歴史
手狭になった旧市庁舎に代わる新庁舎を求め、市長ネイザン・フィリップスの主導で1958年に国際設計競技が開かれた。42か国から520点を超える案が集まり、フィンランドの建築家ヴィルヨ・レヴェルの案が選ばれた。当時カナダの建築家資格を持たなかったレヴェルは、地元の事務所ジョン・B・パーキン・アソシエイツと組み、構造設計をハンスカール・バンデルが担った。着工は1961年11月、開庁は1965年9月13日である。レヴェルは完成を見ることなく1964年に没した。
建築的特徴
二棟の塔(東棟27階・西棟20階)は、内側へ反る湾曲した板状の躯体で、外壁はプレキャスト・コンクリートのパネルで覆われる。二棟が囲む中央には、単一の太い柱に支えられた円盤状の議場が浮かび、彫刻的な量塊として広場に臨む。直交を避けた曲面とコンクリートの造形性を前面に出した手法は、戦後モダニズムのなかでも表現主義的な傾向に位置づけられる。広場の反射池は冬季にスケートリンクとなる。
意義・現在
国際競技を通じて生まれたこの庁舎は、保守的とされたトロントの都市像を一新し、公共建築のあり方や設計競技の意義をめぐる全国的な議論を呼び起こした。スカンディナヴィアの機能主義を北米の市民建築へ持ち込んだ事例としても評価が高い。半世紀を経た現在も市政の場であり続け、ネイザン・フィリップス広場は集会やイベントの舞台として市民生活に深く根づいている。