トゥーゲントハット邸 Villa Tugendhat
チェコ・ブルノに建つ近代建築の傑作。ミース・ファン・デル・ローエが一九三〇年に完成させた住宅で、鉄骨による開放的な空間とオニキスの壁が知られ、ユネスコ世界遺産に登録されている。
§1 — 概要概要
チェコ第二の都市ブルノの傾斜地に建つトゥーゲントハット邸は、ドイツの建築家ルートヴィヒ・ミース・ファン・デル・ローエが設計した個人住宅であり、ヨーロッパにおけるモダニズム建築の原型の一つに数えられる。富裕なユダヤ系実業家フリッツ・トゥーゲントハットと妻グレタのために建てられ、一九三〇年に完成した。
歴史
施主夫妻は新しい時代にふさわしい住まいを望み、ミースに設計を委ねた。建設は一九二九年から翌年にかけて進められ、室内装飾と家具は協働者リリー・ライヒとともにまとめられた。完成からほどなく一家はナチスの迫害を逃れて亡命し、邸宅はゲシュタポに接収され、戦後もしばらく本来の役割を失っていた。荒廃を経て、二〇一〇年から一二年にかけて当初の姿に修復され、現在は一般に公開されている。なお一九九二年、チェコスロヴァキアの分離を取り決めた会談がこの邸宅で開かれたことでも知られる。
建築的特徴
主階を支えるのは、十字形の断面を持ち磨いたクロムで覆われた細い鉄柱であり、これが荷重を担うことで壁は支持の役割から解放されている。その結果、主階の居間は間仕切りのない一続きの空間として広がる。庭側には大きなガラスのカーテンウォールがめぐらされ、そのうち二枚は自動車の窓のように床下へ完全に降ろすことができる。空間を緩やかに分けるのは半透明のオニキスの壁であり、光の加減で表情を変える。装飾を排しながらも、希少な天然素材の肌理によって豊かさを湛えている点に、ミースの「より少ないことは、より豊かなこと」という理念が結実している。
意義・現在
トゥーゲントハット邸は、機能主義建築の到達点として、また流動する内部空間という近代の主題を体現した作品として、建築史に確固たる位置を占める。二〇〇一年にはユネスコ世界遺産に登録され、ミースの初期を代表する住宅建築として、世界各地から訪問者を集めている。