EST. 2026 — Editorial Archive of Notable Architecture

ヘロデ建築

Herodian architecture
年代
前37 — 前4
地域
ユダヤ(ローマ支配下のパレスチナ)
時代
古代

ヘロデ建築とは、ローマの後ろ盾でユダヤを統治したヘロデ大王(在位 前37〜前4年)の造営事業に見られる建築を指す。様式としてはヘレニズム・ローマ建築の一地方版であるが、ローマの技術と趣味を全面的に導入しながら、偶像を禁じるユダヤの宗教的制約のもとで、人物像を用いない装飾体系を組み上げた点に固有の性格がある。施主一代の事業でありながら、ユダヤ地方の建築水準を一挙に地中海世界の水準へ引き上げた。

時期は前1世紀後半、地域はユダヤ・サマリア・ガリラヤおよび周辺に及ぶ。技術面では、ローマのローマン・コンクリート、ヒュポカウストによる床暖房を備えた浴場、長距離の導水路と貯水槽といった設備工学が持ち込まれた。意匠面ではコリント式・イオニア式の柱列、フレスコによる壁面装飾、モザイクの床が用いられるが、モザイクや壁画の主題は幾何学文と植物文に限られ、人物や動物は避けられている。石工の特徴として、縁を細く削り込んで平滑な鏡面を残す「マージン・ドラフト」を施した巨大な切石が挙げられ、エルサレム神殿の擁壁(西壁)にその典型が見られる。地形を段状に造成し、テラスを重ねて劇的な眺望をつくる手法も、この施主の好みを強く映している。

代表作は、大規模に再建されたエルサレムの第二神殿とその広大な基壇、死海西岸の台地に築かれた要塞宮殿マサダ、人工の山を築いて自らの墓所とした宮殿ヘロディオン、そして人工港と碁盤目の街区を備えた地中海岸の新都市カイサリア・マリティマである。先行するハスモン朝の砦や宮殿を受け継ぎつつ、規模と技術の水準で断絶といえる飛躍を果たし、後のローマ属州建築へと接続した。前1世紀の東地中海における、ローマ技術の受容と在地の宗教規範との交渉を示す事例として重要である。

ヘロデ建築
§1

代表建築

Buildings
軍事建築 マサダ
前31 · 南部地区
マサダ

死海西岸、ユダヤ砂漠の卓状台地に築かれたヘロデ大王の要塞宮殿。前37年ごろから…