アブラージュ・アル・ベイト・タワーズ Abraj Al Bait
サウジアラビアの聖地メッカ、聖モスクに隣接して建つ複合超高層群。中央の時計塔は高さ601mで世界有数の高さを誇り、巡礼者向けのホテルや商業施設を収める。2012年竣工。
§1 — 概要概要
アブラージュ・アル・ベイト(アラビア語で「家の塔」の意。マッカ・ロイヤル・クロックタワーとも)は、サウジアラビアの聖地メッカで、イスラーム最大の聖モスク(マスジド・ハラーム)に面して建つ7棟の超高層複合体である。中央の時計塔は尖塔頂部まで601メートルに達し、竣工時には世界有数の高さを誇った。巡礼(ハッジ・ウムラ)で集まる膨大な人々に宿泊・商業・礼拝の場を提供する施設として、サウジ政府が進めるアブドゥルアズィーズ国王寄進事業の中核を成す。
歴史
増え続ける巡礼者を受け入れるための都市改造の一環として計画され、建築・構造設計は2001年にレバノンのダル・アル・ハンダサに委ねられた。建設は2004年に始まり、2012年に完成した。施工はサウジ・ビンラディン・グループが担い、総事業費は巨額に上った。建設地はオスマン帝国期の18世紀に築かれたアジヤード要塞が建っていた丘で、複合体の用地確保のため要塞と丘そのものが取り壊された。この破壊はトルコ側の抗議を招き、歴史的環境の改変として国際的な論争となった。時計は建設途中に国王の要望で加えられた後発の要素で、2010年のラマダーン初日に試験点灯された。
建築的特徴
塔の意匠は、ロンドンのビッグ・ベンを思わせる時計塔の輪郭に、イスラーム建築の装飾語彙を重ねたもので、しばしばポストモダンの新古典主義と評される。中央塔の最上部、地上450メートルから上の時計部分と金色の三日月(クレセント)は、ドイツのSLラッシュ社(マームート・ボード・ラッシュ)が設計・構造を担当した。四面の時計はそれぞれ直径40メートルを超える世界最大級で、文字盤の中心は地上430メートルに位置する。頂部の三日月は直径20メートルを超える一体構造(モノコック)で、外殻自体が荷重を支える。塔群は巨大な基壇(ポディウム)の上に立ち、礼拝時には数万人を短時間で出入りさせる動線が組み込まれている。
意義・現在
アブラージュ・アル・ベイトは、聖地の景観を一変させた現代メッカの新たなランドマークであり、宗教都市における超高層化の象徴である。時計塔は礼拝時刻を遠方からも知らせる機能をもち、上層階にはイスラームの時間と天文に関する博物館・観測施設が置かれる。一方で、聖モスクを見下ろす巨大な開発は、歴史的遺構の喪失や聖地の商業化をめぐる批判も伴っており、現代における宗教・都市・建築の緊張を映し出す存在でもある。
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Related※ サウジアラビアには建築物に関する『パノラマの自由』が制度として存在せず、本建築は存命の建築家による近作のため、外観写真の商用利用には制約が及びうる。掲載画像はWikimedia Commonsでパブリックドメインとして提供されているものに依拠する。