サウジアラビア、メッカにあるイスラーム第一の聖モスク。中央に立方体の聖殿カアバを擁し、信徒が周回するタワーフの場となる。7世紀の囲い壁に始まり、今日では数十万人を収容する世界最大級のモスクへと拡張された。
§1 — 概要概要
マスジド・ハラーム(المسجد الحرام、「聖なるモスク」の意)は、サウジアラビア西部の都市メッカにある、イスラーム教で最も神聖とされるモスクである。その中心には、イスラーム以前から聖地とされてきた立方体の建造物カアバが据えられ、世界中のムスリムが日々の礼拝で向かう方角(キブラ)の原点となっている。毎年のハッジ(大巡礼)には数百万の信徒が集い、モスクは巡礼の中核施設として機能する。
歴史
聖モスクの歴史は、カアバを取り囲む空間の整備として始まる。伝承では、正統カリフのウマル(在位634〜644年)の時代に、カアバ周辺の家屋を取り払い、礼拝の場を画する囲い壁が初めて築かれたとされる。以後、ウマイヤ朝・アッバース朝を経て歴代の支配者が回廊やミナレットを加え、規模を拡大していった。オスマン朝期には、中央のカアバを囲む列柱の周廊が整えられ、長く聖モスクの基本的な姿となった。20世紀にサウジアラビア王国が成立すると、増大する巡礼者を収容するため大規模な拡張が始まり、現在の建物のほとんどはこの近代以降の造営による。
建築的特徴
聖モスクの平面は、通常のモスクと大きく異なる。多くのモスクがキブラの壁へ向かう軸をもつのに対し、ここでは中心のカアバへ全方位から向かうため、建物は立方体を同心状に取り囲む広場と回廊として構成される。この求心的な構成は、信徒がカアバの周囲を反時計回りに七周するタワーフの所作を成り立たせるためのものである。中央の広場(マタフ)を幾重もの周廊が囲み、外周には高いミナレットが林立する。近代の拡張では、大理石の床、冷房、複数階の回廊、可動の日除けなどが導入され、伝統的な意匠と現代の設備技術が併存する巨大建築となった。
意義・現在
マスジド・ハラームは、面積・収容人数のいずれでも世界最大級のモスクであり、イスラーム世界の精神的な中心である。歴代の拡張は、増え続ける巡礼者を安全に迎えるという実務的要請に応えるものであると同時に、聖地を統べる者の威信を示す事業でもあった。現在も拡張工事は続いており、周囲には高層建築が林立して景観は一変した。一方で、群集の安全管理や歴史的建造物の保存をめぐる課題も指摘されている。
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