エピダウロスの古代劇場 Ancient Theatre of Epidaurus
ギリシア・ペロポネソス半島のアスクレピオス聖域にある古代劇場。前4世紀後半に小ポリュクレイトスが設計し、約1万4千人を収容した。完璧な音響と均整美で名高く、現存最良のギリシア劇場とされる。1988年世界遺産。
§1 — 概要概要
エピダウロスの古代劇場(Αρχαίο Θέατρο Επιδαύρου)は、ギリシア・ペロポネソス半島のエピダウロスにある古代ギリシアの劇場である。医神アスクレピオスを祀る聖域の一隅、キノルティオン山の斜面に築かれた。卓越した音響と完璧な均整で、現存する古代ギリシア劇場のなかでも最も美しく保存状態の良いものに数えられる。
歴史
地理学者パウサニアスは、この劇場を前4世紀末、建築家小ポリュクレイトスの設計と伝える。当初は下層34列の客席を備え、6千人ほどを収容した。前2世紀のヘレニズム期に上層21列が増設されて規模はほぼ倍となり、約1万3千〜1万4千人を収めるに至った。古代の医療と信仰の中心地であった聖域では、アスクレピオスを讃える祭礼の一環として、ここで音楽や演劇が催された。多くのギリシア劇場がローマ期に改造を受けたのに対し、この劇場はほとんど手を加えられず、原形をよくとどめた。中世には斜面の土砂に埋もれて忘れられたが、1881年に発掘が始まり、往時の姿が再び現れた。
建築的特徴
劇場はオルケストラ・コイロン・スケネという三部構成をとる。中心にあるオルケストラは直径約20メートルの完全な円で、中央には祭壇テュメレーの台石が残り、周囲を排水溝エウリポスが巡る。すり鉢状に立ち上がる客席コイロンは、自然の斜面を利用して石段を築いたもので、水平の通路で上下二段に分かれる。背後の舞台建築スケネは前面にプロセニアム(前舞台)を備え、ヘレニズム期には二層の石造へと発展した。設計は三つの中心点に基づくとされ、見通しと音響を同時に最適化している。石灰岩の客席が低い雑音をふるい落とし、舞台の声を客席の隅々まで届けることが、近年の音響研究でも確かめられている。
意義・現在
エピダウロスの劇場は、古代ギリシア建築の幾何学的明晰さと、風景を背景に取り込む劇場観をよく示す。山あいの緑を舞台の延長として残す構えは、舞台奥を建物で閉ざすローマ劇場との違いを際立たせる。1988年には、アスクレピオスの聖域の主要建造物とともにユネスコの世界遺産に登録された。今日も毎夏のアテネ・エピダウロス祝祭で古典劇が上演され、二千数百年を経てなお、本来の用途のままに人々を迎えている。