インドネシア・ジャワ島中部に立つ世界最大級の仏教遺跡。8〜9世紀にサイレンドラ朝が築いた、方形と円形の壇を積み重ねた立体の曼荼羅で、頂部の大ストゥーパへ登る道筋が悟りへの歩みを表す。
§1 — 概要概要
ボロブドゥールは、インドネシア・ジャワ島中部、ケドゥ盆地に立つ世界最大級の仏教遺跡である。8〜9世紀、この地を治めたサイレンドラ朝のもとで築かれた。基壇の上に方形のテラスを重ね、その上に三段の円形壇と頂部の大ストゥーパを戴く階段状の構造で、上空から見ると巨大なマンダラ(曼荼羅)をなす。礼拝者が時計回りに各層を巡って頂へ登る道のりそのものが、迷いの世界から悟りへ向かう精神の歩みを表している。設計者は記録に残らず、伝説では建築家グナダルマに帰せられるが定かではない。
歴史
建造の経緯を記す同時代の文字資料はなく、考古学的にはおよそ前後の8世紀後半から9世紀前半に造営されたと考えられている。完成からほどなく仏教の中心が移り、やがてジャワにイスラームが広まると、ボロブドゥールは打ち捨てられ、火山灰とジャングルに覆われて忘れられた。1814年、ジャワを統治していたイギリスのトマス・スタンフォード・ラッフルズによって再発見される。20世紀に入り、1907〜11年にオランダのファン・エルプが大規模な修復を行い、さらに1975〜82年にはユネスコとインドネシア政府による大事業として石を解体・再構築し、排水設備を備える保存工事が施された。1991年、近隣のムンドゥット寺院・パウォン寺院とともに「ボロブドゥール寺院遺跡群」としてユネスコ世界遺産に登録された。
建築的特徴
全体はおよそ200万個の安山岩を、モルタルを用いずに組み上げた組積造である。構造は仏教の宇宙観に対応して三界に分かたれる。基壇は欲望の世界「欲界(カーマダートゥ)」にあたり、その大半は構造補強のため早くに石で覆い隠された。方形のテラス群は形ある世界「色界(ルーパダートゥ)」で、回廊の壁には仏陀の生涯や本生譚を語る二千を超えるレリーフと、壁龕に納まる仏像が連なる。上層の円形壇は形を超えた世界「無色界(アルーパダートゥ)」を表し、格子状の小ストゥーパ七十二基の内にそれぞれ仏像が坐す。装飾を削いでゆく上昇の構成が、悟りへの段階をかたちにしている。
意義・現在
ボロブドゥールは、東南アジアにおける大乗仏教の隆盛と、ジャワの石工技術の到達を示す記念碑である。アンコール・ワットに三百年、ヨーロッパの大聖堂に四百年先立つ。長く忘却の下にあったが、再発見と度重なる修復を経て、いまはインドネシア随一の文化遺産として国の象徴的存在となっている。仏教の聖地として巡礼の対象であり続けると同時に、立体曼荼羅という稀有な建築思想を今に伝えている。