コイトタワー Coit Tower
サンフランシスコのテレグラフ・ヒルに建つ高さ64メートルの塔。富豪リリー・ヒッチコック・コイトの遺贈により1933年に完成したアール・デコの記念塔で、内部は大恐慌期のフレスコ壁画で飾られる。
§1 — 概要概要
コイトタワー(Coit Tower)は、サンフランシスコのアール・デコを代表する記念塔である。市街と湾を見下ろすテレグラフ・ヒルの頂、パイオニア・パークに建ち、塗装を施さない鉄筋コンクリートの円筒が高さ64メートル(210フィート)にわたって屹立する。展望塔であると同時に、内部を覆うフレスコ壁画によって1930年代カリフォルニアの世相を伝える、美術と建築の複合体でもある。
歴史
塔は、富豪リリー・ヒッチコック・コイト(1843–1929)の遺贈に由来する。彼女は遺産の三分の一を「私の愛する街を美しくするために」用いるよう遺言し、その意を受けた市が設計競技を実施した。勝者はサンフランシスコ市庁舎などを手がけたアーサー・ブラウン・ジュニアの事務所であり、実際の意匠はヘンリー・テンプル・ハワードが担当した。工事は1932年に始まり、1933年10月に完成・献堂された。なお消火活動を愛したコイトに因んで塔が消火ホースのノズルを模したという俗説があるが、これは事実ではない。
建築的特徴
外観は、装飾を排した縦長の円筒という単純な構成に拠る。頂部の直径を底部より絞ることで上重りを避けるなど、細部には古典の素養に裏打ちされた洗練がうかがえる。連邦政府の公共美術事業(PWAP)の一環として、内部のロビーと階段室には二十名を超える画家がアメリカン・ソーシャル・リアリズムのフレスコ壁画を制作し、農業・工業・都市生活など大恐慌下のカリフォルニアが活写された。主入口の上部には彫刻家ロバート・ボードマン・ハワードによる不死鳥のレリーフが掲げられ、幾度も焼亡と再生を繰り返した街を象徴する。
意義・現在
完成以来、コイトタワーはサンフランシスコのスカイラインを画する象徴であり続けてきた。竣工直後には、一部の壁画に描かれた左翼的な図像が論争を呼んだことでも知られる。2008年に米国国家歴史登録財に登録され、現在も展望塔として一般に公開されている。