アイアンブリッジ The Iron Bridge
イングランド、セヴァーン峡谷に架かる世界初の鋳鉄橋。1779年に鉄のアーチが組み上げられ、産業革命の象徴として世界遺産の峡谷の名の由来となった。
§1 — 概要概要
アイアンブリッジ(The Iron Bridge)は、イングランド西部シュロップシャーのセヴァーン川に架かる、世界初の本格的な鋳鉄橋である。石と木が支配してきた構造の歴史に工業素材が参入した画期であり、橋の名がそのまま峡谷と町の名になった。
歴史
急峻なセヴァーン峡谷は石炭・鉄鉱石の産地である一方、岸が不安定で渡河が困難だった。建築家トーマス・ファーノルズ・プリチャードが川の航行を妨げない単径間の鉄橋を提案し、彼の没後、コールブルックデールの製鉄業者エイブラハム・ダービー3世が鋳造と建設を担った。約2年の工事を経て1779年夏に鉄のアーチが架け渡され、1781年の元日に開通した。1934年に古代記念物に指定されて車両の通行を終え、以後は歩行者橋として保存されている。
建築的特徴
主径間約30mのアーチ橋で、5列の鋳鉄アーチリブが桁を支え、桁下には帆船が通航できる高さが確保された。接合部には、ほぞ継ぎや蟻継ぎといった大工仕事の継手がそのまま鋳鉄に翻訳されており、新素材を旧来の木造の文法で扱った過渡期の痕跡が読み取れる。部材はダービーの製鉄所で砂型鋳造により製作された。前例のない構造への不安から部材は余裕をもって太くつくられ、その冗長性が240年を超える存続を支えた側面もある。
意義・現在
アイアンブリッジの成功は鋳鉄の構造利用を一気に広め、温室、駅舎、水晶宮からエッフェル塔へと続く「鉄の世紀」の出発点となった。鋳鉄はやがて錬鉄、そして鋼へと引き継がれ、構造材の主役交代を促していく。周辺一帯は産業革命発祥の景観として「アイアンブリッジ峡谷」の名で1986年に世界遺産に登録され、橋はその中心的記念物である。イングランドの指定建造物(グレードI)でもある。