ロンドン、セント・ジェームズ宮殿に隣接する邸宅。マールバラ公爵夫人サラのために1709–1711年にクリストファー・レンが設計した赤煉瓦の簡素な館で、のち王族の邸を経て、現在は英連邦事務局の本部となっている。
§1 — 概要概要
マールボロ・ハウス(Marlborough House)は、ロンドン中心部、ペル・メル沿いに、セント・ジェームズ宮殿と背を接して建つ邸宅である。初代マールバラ公爵夫人サラ・チャーチルのために、当時のイングランドを代表する建築家クリストファー・レンが設計し、1709年から1711年にかけて建てられた。豪奢を避けた簡素な意匠で知られ、王族の住まいを経て、現在は英連邦(コモンウェルス)事務局の本部として用いられている。
歴史
建設の発意は、女王アンの寵臣であった公爵夫人サラにある。彼女は近郊の壮大なブレナム宮殿とは対照的に、「堅牢で簡素、使い勝手のよい」都市の館を望み、女王から敷地の借地権を得た。1709年に夫人自らが礎石を据え、設計は宮廷測量官だったレンに委ねられた。実際の施工の多くは、同名の息子クリストファー・レン(子)が父の監督下で担ったとされる。建設の途上で夫人はレンと衝突して彼を解任し、自ら工事の完成を見届けた。館は1711年に竣工している。
18世紀後半にはウィリアム・チェンバーズが階を加えて改修し、19世紀にはジェームズ・ペネソーンが屋階や車寄せを増築して規模を広げた。1817年に敷地が王室に返ると、以後はレオポルド公(のちのベルギー王)、ウィリアム4世の王妃アデレード、皇太子(のちのエドワード7世)夫妻、そして1936年からはメアリー王妃の邸として、長く王族に用いられた。
建築的特徴
意匠の基調は、公爵夫人が求めた簡素さにある。外壁にはオランダから船のバラスト(重し)として運ばれた赤煉瓦が用いられ、隅部を石のルスティカ仕上げで引き締める。柱列やペディメントで飾り立てる当時のパッラーディオ流とは異なり、装飾を抑えた平明な箱形の量塊が、フランスのオテル・パルティキュリエ(都市の邸館)の伝統に通じる。簡素ながら均整のとれたこの煉瓦造の館は、レン晩年の抑制された作風を示すとともに、続くジョージアン期の都市住宅の一つの規範ともなった。当初2階建てだった本体は、後世の増築によって階を重ねている。
意義・現在
マールボロ・ハウスは、セント・ポール大聖堂で知られるレンの、数少ない現存する邸宅建築の一つである。1959年に英連邦へ提供され、1965年の英連邦事務局の創設以来その本部となり、英連邦首脳会議をはじめ多くの国際的な協議の舞台となってきた。グレードI指定建造物として保護され、内部にはオラツィオ・ジェンティレスキの天井画など、各時代の美術が伝わる。