ロシア・モルドヴィア共和国の首都サランスクにあるサッカー専用競技場。2018年FIFAワールドカップに向けて地元の設計会社サランスクグラジダンプロエクトが設計し、太陽を主題に、橙・赤・白の金属パネルで楕円の外周を包む。
§1 — 概要概要
モルドヴィア・アリーナ(Мордовия Арена)は、ロシアのヴォルガ連邦管区に属するモルドヴィア共和国の首都サランスクにあるサッカー専用スタジアムである。2018年FIFAワールドカップの会場として建てられ、大会時の収容人数は約4万4千人、延床面積は約12万2700平方メートルに及ぶ。サランスクは同大会の開催都市のなかで最も人口の少ない都市であった。外観は、モルドヴィン人の古い神話や伝承で中心的な象徴とされる太陽を主題としている。
歴史
新スタジアムの建設は、ロシアがワールドカップの開催権を得る前から決まっていた。当初は約2万8千席の規模で、モルドヴィン人とロシア国家の諸民族との「統合千年」の記念行事と、2012年の全ロシア・スパルタキアードに間に合わせる計画であった。2010年、市中心部に近いインサル川右岸の氾濫原で、木造家屋やガソリンスタンドを撤去して用地が造成された。
サランスクが開催都市に選ばれると、FIFAの基準に合わせて計画は4万5千人規模へ拡大され、開業は先送りされた。招致段階ではドイツの建築家ティム・フーペによる暫定案が示されたが、最終的な設計は地元の設計会社サランスクグラジダンプロエクトが担った。工事は中断を挟みつつ進み、連邦の事業主体スポルト・インジニリングのもとで、カザン・アリーナの施工実績をもつPSOカザンが総合請負を務めた。2017年末に鉄骨の骨組みへ外装パネルが取り付けられ、2018年4月9日に供用が認められた。初の公式戦は同年4月21日である。
大会では6月16日から28日にかけてグループリーグの4試合が行われた。6月19日には日本がコロンビアを2対1で破り、アジアの国がワールドカップで南米勢に初めて勝った試合として、日本では「サランスクの奇跡」と呼ばれている。
建築的特徴
平面は長方形の四隅を大きく丸めた楕円形で、2層の高い基壇の上に観客席のボウルが載る。スタンドのコンクリート躯体から立ち上がる鋼製の骨組みは、内側へ傾きながらそのまま観客席上の屋根へと連続し、カンチレバー状に張り出した庇がピッチを囲む。外周の壁と屋根は一続きの殻として扱われ、有孔と無孔の金属パネルを組み合わせた外装が全体を覆う。
橙・赤・白の配色は、太陽の象徴であると同時に、モルドヴィアの民族工芸の色彩を参照したものと説明されている。座席も同系の色を画素のように散らした模様で塗り分けられ、外装と内部の意匠が呼応する。見やすさを確保するため、ピッチ中央から客席までの距離は最大でも90メートルに抑えられた。大会時の座席のうち約1万5千席は、上層の鉄骨架台に据えた仮設席であった。
完成後には、全体の輪郭が2010年南アフリカ大会の主会場サッカー・シティに似ているとの指摘も報じられた。
意義・現在
大会後の施設は、サランスクとモルドヴィアで最大のスポーツ・余暇の拠点と位置づけられ、仮設席を撤去して3万席前後に縮小する計画が示されていた。本拠地としたFCモルドヴィア・サランスクは2020年に解散し、FCタンボフなどが一時的にホームとして使用した。その後はラグビーの国際試合や国内のスーパーカップ、式典の会場にも使われ、2025年シーズンにはペンザの競技場改修に伴ってラグビーのロコモティフ・ペンザが本拠とした。人口30万人規模の地方都市に国際規格の大型競技場を建てた例として、2018年大会の施設の大会後利用をめぐる議論でもしばしば取り上げられる。