アルメニア南部、アララト山を望む平原に建つ修道院。聖グリゴル・ルサヴォリチが…
アルメニア南部ヴァヨツ・ゾル地方の渓谷に立つ13〜14世紀の修道院。彫刻家モミクが設計した二層構造の聖母聖堂で知られ、オルベリアン家の霊廟としてアルメニア中世建築の精華を示す。
§1 — 概要ノラヴァンク(Noravank、アルメニア語で「新しい修道院」の意)は、アルメニア南部ヴァヨツ・ゾル地方、アマグ川が刻んだ渓谷に立つ修道院である。エレバンの南約120キロ、イェギグナゾルの近くに位置し、対岸には煉瓦色の断崖がそびえる。二層構造の聖母聖堂(スルブ・アストヴァツァツィン)が最もよく知られる。13〜14世紀にはシュニク地方の主教座が置かれ、近隣のグラゾル大学とも結びついたアルメニアの宗教・文化の一大拠点であった。
修道院は1105年、司教ホヴハネスによって創建された。現存する複合体の中心をなす聖カラペト聖堂は、地震で失われた旧聖堂の北側に、四隅に支柱を立てる方形平面の構成で1216〜1227年に建てられた。1261年には西側にガヴィット(前室)が加えられた。最も壮麗な聖母聖堂は、出資者である王子ブルテル・オルベリアンにちなみブルテラシェン(ブルテルの建築)とも呼ばれ、1339年に完成した。これは彫刻家・細密画家モミクが設計した最後の作であり、聖堂のそばには同年銘の彼の墓碑ハチュカルが残る。建築家シラネスとモミクは13世紀後半から14世紀初頭にかけてここで活動した。外周の城壁は17〜18世紀に築かれた。崩落していた円筒部と円錐屋根は1997年に再建されたが、これは「空想的な復元」との批判もある。
赤みを帯びた凝灰岩が断崖の色と呼応し、渓谷の景観と一体をなす。聖母聖堂は二層からなり、上階へは西正面から張り出した細い片持ちの石段で登る独特の構成をもつ。壁面には聖人や供養者を表す浮彫が豊かに刻まれ、モミクの手になるハチュカルや入口上部のティンパヌムの彫刻はアルメニア中世彫刻の頂点とされる。方形平面に円筒形の鼓胴と円錐屋根を載せる、アルメニア独自の教会堂形式を踏襲しつつ、二層構成と外付け階段によって他に類を見ない立体性を獲得している。
ノラヴァンクはアルメニア中世建築を代表する遺構であり、とりわけモミクの彫刻と建築を一身に体現した聖母聖堂は同国美術史上の里程標とされる。アルメニアの文化遺産記念物に登録され、世界遺産の暫定リストにも挙げられている。渓谷の景観とあいまって、国内有数の巡礼・観光の地となっている。