バルセロナ旧市街に建つ、アントニ・ガウディ初期の代表作。実業家エウゼビ・グエルの邸宅として1886年から1888年にかけて建てられ、放物線アーチの玄関と、トレンカディスで彩られた屋上煙突群が名高い。ガウディの作品群としてユネスコ世界遺産に登録されている。
§1 — 概要概要
グエル邸(Palau Güell)は、スペイン・バルセロナの旧市街、ランブラ大通りにほど近いラバル地区に建つ邸宅である。建築家アントニ・ガウディが、生涯の後援者となる実業家エウゼビ・グエルのために設計し、1886年から1888年にかけて建てられた。間口の狭い都市の敷地に建ちながら、構造と装飾の双方で後年のガウディを予告する実験に満ち、初期の代表作に数えられる。
歴史
グエルは、繊維業で財を成したカタルーニャの大実業家であり、文化の擁護者でもあった。一家の本邸として、また賓客をもてなす社交の場として構想されたこの邸宅で、ガウディは三十代半ばにして大きな裁量を与えられた。豪奢な石材と鉄、木材がふんだんに用いられ、当時としては破格の費用が投じられたとされる。完成後はグエル家の社交と政治の舞台となったが、スペイン内戦期に接収され、のちにバルセロナ県の所有へ移った。1984年、ガウディの作品群の一つとしてユネスコ世界遺産に登録され、修復を経て一般に公開されている。
建築的特徴
正面を特徴づけるのは、馬車を乗り入れるための二つの大きな放物線アーチの門である。鍛えた鉄の格子が海藻のような有機的な曲線を描き、その中央にはカタルーニャの再生を象徴する不死鳥が据えられた。内部は、中央の吹き抜けの大広間を軸に各室が立体的に組み合わされ、頂部の放物線ドームには小さな採光孔が穿たれて、昼は星空のように光を落とす。地下の厩から最上階まで、用途に応じて空間を垂直に積層させる構成は、限られた敷地を立体的に使い切るガウディの手腕を示している。屋上には煙突と換気塔が彫刻のように林立し、その多くがトレンカディス――割ったタイルや陶片を組み合わせたモザイク――で鮮やかに覆われている。
意義・現在
グエル邸は、放物線アーチや逆さ吊り模型による構造探究、廃材を生かしたモザイク装飾など、後のコロニア・グエル教会やサグラダ・ファミリアへ展開する主題が、すでに凝縮されて現れた建物である。華麗な歴史主義の装いをまといながら、力の流れを直接かたちにしようとする姿勢は、単なる様式の引用を超えていた。今日では博物館として公開され、ガウディの創造の出発点を伝える場となっている。