サクレ・クール寺院 Sacré-Cœur
パリのモンマルトルの丘に建つロマネスク・ビザンティン様式のバシリカ聖堂。普仏戦争後の国民的祈念として建設され、白い石壁とドームでパリを見下ろす象徴的存在である。
§1 — 概要概要
サクレ・クール寺院(聖心大聖堂)は、フランス・パリ北部のモンマルトルの丘の頂に建つカトリックのバシリカ聖堂である。白く輝く外壁となだらかなドーム群を特徴とし、パリ市街を一望する位置から都市の景観に強い印象を与える。設計者ポール・アバディが構想したロマネスク・リヴァイヴァルとビザンティン・リヴァイヴァルを融合した様式により、中世の重厚さと東方教会的な丸屋根の優美さを兼ね備える。今日ではパリでも有数の巡礼地・観光地として知られる。
歴史
聖堂は普仏戦争(1870〜71年)とそれに続く混乱を経て、国民的な祈念の場として構想された。1874年の設計競技でポール・アバディの案が選ばれ、1875年に礎石が据えられた。不安定なモンマルトルの地盤を補うため、約30メートルの深さに達する83本の井戸状の杭が打ち込まれ、基礎が固められた。アバディは1884年に没し、その後はリュシアン・マーニュら六人の建築家が工事を引き継いだ。建物は1914年にほぼ完成し、第一次世界大戦による中断を経て1919年に献堂された。2022年にはフランス歴史的記念物に指定されている。
建築的特徴
外壁にはパリ近郊シャトー=ランドン産のトラバーチン系石灰岩が用いられている。この石は雨水に触れると方解石を析出し、時とともに自ら白さを取り戻す性質をもつため、煤煙の多い都市にあっても聖堂は白く保たれる。中央の主ドームは高さ約83メートルに達し、その内部では半球の重みを四隅の支柱へと巧みに導くペンデンティブがビザンティン様式特有の空間を生んでいる。内陣天井を覆う巨大なモザイク画「栄光のキリスト」は、世界最大級のモザイクの一つに数えられる。
意義・現在
サクレ・クールは、19世紀末フランスにおける宗教的・政治的な記憶と結びついた建造物であり、その成立の経緯は今日でもさまざまに論じられている。一方で、ロマネスクとビザンティンの語彙を独自に統合した折衷的様式は建築史上の一典型として評価されてきた。モンマルトルの丘の頂に白くそびえる姿はパリの象徴的風景の一部となり、毎年多くの参拝者と観光客を迎えつづけている。