ロシア南東部サマーラの北西、市内最高所に立つサッカー専用競技場。2018年FIFAワールドカップに向けて建設され、宇宙産業の都市にちなむ宇宙船のような金属ドームが全観客席を覆う。
§1 — 概要概要
サマーラ・アリーナ(Samara Arena/現称ソリダルノスチ・サマーラ・アリーナ)は、ヴォルガ川中流の工業都市サマーラに立つサッカー専用競技場である。2018年FIFAワールドカップの会場の一つとして新設され、大会後は地元クラブ、クリリヤ・ソヴェトフ・サマーラの本拠地となった。収容人員は4万4918人。2021年に銀行との命名権契約で現在の名に改められたが、旧称でも広く呼ばれる。造形の主題は宇宙であり、宇宙産業の拠点として発展したサマーラの歴史を、競技場全体を覆う金属の屋根で表している。
歴史
招致段階でFIFAに示された当初案では、敷地はヴォルガ川とサマーラ川の合流部に近い低地とされていた。しかし工費の高さ、空港からの遠さ、浸水の危険、歴史的建物の取り壊しを伴う点などに地元の建築家や市民から疑問が出され、代替地の検討を経て、市北西部のラジオツェントル(無線局)地区に移された。1949年に短波放送の送信所が置かれた、市内でもっとも標高の高い場所である。
2014年7月21日に着工式が行われ、2018年4月に工事の完了が宣言された。同月28日、クリリヤ・ソヴェトフとファケル・ヴォロネジの試合が最初の公式戦となっている。総合設計はサマーラ州の公的設計機関テルニイグラジュダンプロエクトと設計事務所「アリーナ」が担い、事業主体は国の競技施設整備機関スポルト・インジニリングである。大会ではロシア代表戦を含むグループリーグ4試合と、ラウンド16、準々決勝の計6試合が行われた。大会後は維持費の負担が表面化し、2018年秋には債務のため照明設備が止められる事態も報じられた。
建築的特徴
平面は直径約330メートルの円形で、モスクワのルジニキ・スタジアムを上回る。楕円形の基壇の上に上下二層の観覧席を置き、その間に二層のスカイボックス(個室観覧席)を挟む。観客席はすべて屋根に覆われ、スタンドには暖房が備わる。
最大の特徴である屋根は、高さ21.4メートルの角錐状の脚の上に32本の片持ち梁を放射状に架けた組立式の鉄骨構造である。総重量は約1万3000トン、屋根面積は約7万6000平方メートルに及ぶ。頂部はほぼ平らで、張り出した梁の先端が星形の輪郭をつくり、遠目には宇宙船の機体を思わせる。建物の高さは60メートル。基礎は鉄筋コンクリートの一体の版で、構造体に用いたコンクリートは23万立方メートルを超える。フィールドから44メートルの高さには、1面172平方メートルの大型映像装置が屋根の鉄骨から吊られている。設計段階で英国の環境認証BREEAMの評価を受け、省エネルギーの面でも一定の評価を得た。
意義・現在
2018年大会に向けてロシア各地に整備された新競技場のなかで、サマーラ・アリーナは地域の産業的な自己像を形態に直結させた例である。競技場専門サイトStadiumDB.comによる2018年の年間投票では、一般投票で2位となった。一方、敷地選定をめぐる論争や大会後の維持費の問題は、国際大会のための巨大施設が開催都市に何を残すかという問いを具体的に示している。現在もクリリヤ・ソヴェトフの本拠地として使われ、2019年にはロシア・カップ決勝の会場ともなった。