ツバメの巣 (ヤルタ) Swallow's Nest
クリミア半島南岸、ヤルタ近郊の断崖に建つ、小さなネオゴシックの装飾的な城。1911〜12年、石油事業で財をなしたシュタインゲル男爵のために、ロシアの建築家レオニード・シェルヴードが設計したと伝えられる。海に突き出す40メートルの岩上に立つ姿で、クリミア南岸の象徴となっている。
§1 — 概要概要
ツバメの巣(ウクライナ語:Ластівчине гніздо、ロシア語:Ласточкино гнездо)は、クリミア半島南岸、ヤルタ近郊のガスプラにあるアイ・トドール岬の断崖に建つ、小さな装飾的な城である。海面からおよそ40メートルの岩の突端に立ち、宙に浮かぶかのような姿で知られる。間口20メートル、奥行き10メートルほどの小規模な建物だが、クリミア南岸を代表するランドマークとなっている。
歴史
この岬には19世紀末、ロシアの将軍のために建てられた木造の別荘があり、「愛の城」と呼ばれていた。1911年、バクーの石油事業で財をなしたバルト・ドイツ系の貴族シュタインゲル男爵がこの地を取得し、わずか一年ほどで木造家屋を現在の石造の城へ建て替えた。設計を手がけたのは、ロシアの建築家レオニード・シェルヴードと伝えられる(一部の資料は技師N・S・シェルヴードの名を挙げ、帰属には異説もある)。ライン川沿いの中世の城を思わせる意匠は、故郷ドイツの城館への施主の憧れを反映したものとされる。1927年のクリミア大地震では岩盤に亀裂が走り、塔が海上に突き出したまま宙吊りになる危機に瀕したが、建物自体は崩落を免れた。1960年代末から70年代にかけて、岩盤を鉄筋コンクリートで補強する大規模な修復が行われた。
建築的特徴
ゴシック・リヴァイヴァル様式により、小さな躯体に塔・小尖塔・銃眼付きの胸壁を凝縮し、中世の城砦を思わせる外観を作り出している。尖頭アーチや細い窓、トレーサリーといった要素が、限られた寸法のなかに「物語の挿絵」のような城のイメージを成立させている。岩の突端ぎりぎりに据えられた配置が構造の軽やかさと危うさを際立たせ、その印象が「ツバメの巣」の名の由来となった。実用的な居館というより、風景のなかに据えられた建築的な装飾——フォリー——としての性格が強い。
意義・現在
ツバメの巣は、19世紀以来クリミア南岸に流行した城館建築の系譜のなかでも、とりわけ絵画的な存在として知られる。アガサ・クリスティ原作のソ連版映画をはじめ、数々の映像作品の舞台となり、半島の観光ポスターに繰り返し登場してきた。2011年の修復を経て展示施設として公開され、現在もクリミアで最も多くの来訪者を集める名所の一つである。