母なる祖国像 The Motherland Calls
ロシア・ヴォルゴグラードのママエフ・クルガンに立つ巨像。スターリングラード攻防戦の記念碑として1959年から1967年に建造された。剣を掲げる祖国=母の像は剣先まで約85メートルに及び、社会主義リアリズムを代表する。
§1 — 概要概要
「母なる祖国像」(The Motherland Calls、ロシア語「Родина-мать зовёт!」)は、ロシア南部の都市ヴォルゴグラード(旧スターリングラード)のママエフ・クルガンの丘に立つ巨大な記念碑である。第二次世界大戦の転換点となったスターリングラード攻防戦を悼み、剣を高く掲げて進軍を呼びかける女性像として造形された。剣先までの高さは約85メートルに及び、完成当時は世界最大級の彫像であった。
歴史
記念碑は1959年に着工し、1967年に完成した。美術的な主導者は彫刻家エフゲニー・ヴチェーチチで、像の造形と全体の構想を担った。建築家ヤコフ・ベロポーリスキーが丘全体の空間構成を設計し、参道・広場・諸記念物を経て頂部の巨像へと至る道筋を組み立てた。前傾して剣をかざす不安定な姿勢を支える構造上の難題は、構造技師ニコライ・ニーキチンが解決した。彼はのちにモスクワのオスタンキノ・タワーも手がけた人物である。完成後、前傾姿勢に起因する構造的な負担が懸念され、2017年から2020年にかけて地盤の変位や内部ケーブルの劣化に対処する大規模な修復が行われた。
建築的特徴
像は鉄筋コンクリートを主体とし、内部を隔壁と階段で支える中空構造をとる。前傾する胴体、水平に伸ばした左腕、垂直に振り上げた剣が、強い動きと緊張を生み出している。像本体の高さは約52メートル、剣がさらに約27メートルを加える。この大胆な姿勢を保つため、内部にはプレストレストの鋼索が張られ、張力によって全体が引き締められている。表面は粗いテクスチャーを残し、振り向く顔の劇的な表情とはためく衣のひだは、社会主義リアリズムの美学を体現している。
意義・現在
ママエフ・クルガンの丘全体が、訪れる者を像へと導く一つの記念的な舞台として構成されている。「母なる祖国像」は、戦争の記憶と国家の物語を可視化する存在として、ロシア文化のなかで特別な位置を占める。スターリングラード攻防戦の犠牲を悼む慰霊の場であると同時に、追悼と国民的アイデンティティの焦点として機能してきた。巨大な彫像と建築・地形が一体となった記念碑の到達点の一つであり、二〇世紀の記念碑芸術を語るうえで欠かせない作品である。