インド・コルカタのマイダン公園に建つ白大理石の記念建築。ヴィクトリア女王に捧げられ、設計はウィリアム・エマーソン。ムガル様式を西洋の建築型に融合したインド・サラセン建築の代表作で、現在は美術館として公開されている。
§1 — 概要概要
ヴィクトリア・メモリアル(Victoria Memorial)は、インド・西ベンガル州コルカタの中心部、マイダンと呼ばれる広大な緑地に建つ白大理石の記念建築である。インド女帝を兼ねたイギリスのヴィクトリア女王(1819–1901)を記念して英領期に建てられ、現在はインド政府文化省の管轄する美術館・博物館として公開されている。ムガル建築の要素を西洋の建築型に融合させた、インド・サラセン建築の到達点として知られる。
歴史
女王が没した1901年、当時のインド総督カーゾン卿が記念建築の構想を提唱したことに始まる。設計は、英領インドで数多くの公共建築を手がけたウィリアム・エマーソンに託された。1906年1月4日、後の国王ジョージ5世(当時の皇太子)によって礎石が据えられたが、カーゾンの離任などにより工事は遅れ、上部構造の建設が本格化したのは1910年である。建物が公開されたのは、首都がすでにデリーへ移ったのちの1921年12月であった。総督がイタリア・ルネサンス様式を望んだのに対し、最終的に採用されたのはインド在来の要素を取り込んだ折衷的な様式であった。エマーソンの助手ヴィンセント・エッシュは監督建築家として施工を支え、北側の橋や庭園の門、中央ドーム頂部の「勝利の天使」像などを手がけている。
建築的特徴
建物は全長103メートル・幅69メートル、高さ約56メートルに及び、タージ・マハルと同じラージャスターン産のマクラーナ大理石で覆われている。中央に球根状の大ドームを戴き、四隅に小ドームを載せたチャトリを配する構成は、明らかにタージ・マハルを意識したものである。透かし彫りのジャーリーや高い玄関アーチ、八角形のチャトリといったムガル建築の語彙に、ヴェネツィア・エジプト・デカンなど多様な源泉の意匠が重ねられ、英領期に流行したインド・サラセン様式の典型をなす。ドーム頂部には高さ約4.9メートルのブロンズ製「勝利の天使」像が立つ。
意義・現在
ヴィクトリア・メモリアルは「ラージ(英領)のタージ」とも呼ばれ、植民地支配が自らの威信を在来の建築語彙を借りて可視化しようとした記念碑的事例である。独立後はその意味づけを離れ、英領期の絵画・写真・文書を収める美術館として再生し、コルカタ随一の名所となっている。64エーカーに及ぶ庭園とともに、近代インドの歴史を映す建築として今日まで親しまれている。